ゆく年くる年

さてこの日の魔鈴の店も前日と同様に忙しい一日だった。

完全予約制にしているので来客人数は管理出来ていたが、予約制であることを知らない客も結構来るので対応が大変である。

そんな予約制であることを知らない客にはシロか横島が申し訳なさそうに謝って帰ってもらうが、中には納得しなくて怒り出す客も僅かだながら存在した。

ただ三ヶ月ほど前に予約だけで対応人数を越えた際に予約を締め切って以降は、クリスマス期間は完全予約制になるからとのお知らせを掲示していたので知らないのはほとんど初めての客ばかりだったが。

基本的に魔鈴の店は調理担当が魔鈴とタマモの二人しか居ないので、対応人数も限られている。

クオリティを落とさずに営業するには当然限界があるし、魔鈴はギリギリまで儲けようとは考えてなかった。



「いや~、流石に疲れたな」

慌ただしいこの日の営業が終わったのは深夜零時を過ぎた頃である。

昨年と同じくイブのこの日だけは特別に時間を延長して営業した結果なのだが、途中で休憩を挟みつつも約十二時間労働だった横島達は流石に疲れが見えていた。


「今日は一年で一番忙しい日ですからね。 売り上げも過去最高ですよ」

営業自体は終わったとはいえ、仕事はまだまだ残っている。

店内の掃除から明日の仕込みに売り上げの清算など仕事は多いので、横島達は分担して素早く終わらせていく。

魔鈴はこの日の売り上げを数えるが、どうやら開店以来最高売り上げを記録したらしい。

まあ横島達三人が来た今年は予約客を増やしたり料理の配達もしたので当然の結果ではあるのだが。


「それじゃ、少し時間が遅いですけど私達もクリスマスを楽しみましょうね」

最終的に後片付けや仕込みが終わったのは深夜一時を回った頃だった。

魔鈴が自分達用にと残しておいたクリスマスディナーのご馳走で、簡単なパーティーをすることになる。

メンバーは横島達四人と黒猫に最後まで洗い物を手伝っていた雪之丞が居る。

特に横島・シロ・雪之丞はよく食べるので食卓には、チキンの丸焼きやローストビーフの塊などが大量に用意してあった。


「メリークリスマス!!」

まずはお酒やジュースで乾杯した一同だが、横島達は待ちきれないとばかりにがつがつと料理を食べ始める。

朝からずっと美味しそうな料理を運んでいただけにシロなどは特によく我慢したとも言えるが、当然ながら朝昼夜の食事はきちんと食べた上でのことだ。


「そういえば頂いた御神酒はどうしますか?」

がつがつと品性のカケラもなく食べる横島達を魔鈴は楽しげに見ていたが、ふと今朝貰って来た御神酒をどうするか決めてなかったことを思い出す。


「御神酒?」

「ああ、今朝パピリオと天竜から竜神族の御神酒貰ったんだよ」

御神酒の件を知らない雪之丞は軽く興味を示すが、魔鈴やタマモ達のように驚くことはなく飲むなら一杯くれとしか言わない。


「せっかくですからお正月にでも飲みましょうか?」

「そうっすね」

あまりに珍しい御神酒に流石の横島もいつ飲もうか迷うが、どうせなら正月に飲もうということになりこの日は飲まれることはなかった。

結局この日の横島達は深夜三時近くまで騒ぐことになる。




65/100ページ
スキ