ゆく年くる年

「やっぱり低級霊ね。 おキヌちゃん」

そのまま現場に到着した令子達だが、そこに居たのは悪霊化寸前の低級霊だった。

軽く近くも調べたが特に問題になりそうな物はなく、おキヌのネクロマンサーの笛で成仏させて終わりである。

実働時間は調査を含めて十五分だったが、それはGSならば誰でも同じ結果だったであろう。


「呆気なかっただな」

「あの程度の霊障だと何処のGSに頼んでもあんなものよ。 依頼料も十万ってとこかしらね」

寒いのが嫌いな令子は霊障を解決するとさっさと氷室家に戻り露天風呂に直行するが、あまりに呆気ない除霊に早苗は驚いている。

まあ早苗の中の令子の除霊イメージが死津喪比女の時の除霊なので、普通の除霊とのギャップが激しかったらしい。


「本当にありがとうございました」

「ただの気まぐれですからお気になさらずに……」

その後令子は再び氷室家で温泉と食っちゃ寝を繰り返す生活に戻るが、計算外だったのは東京のGSが助けてくれたとの情報が広がった地元住民が次々にお礼にやって来てしまったことだろう。

米や野菜なんかの食料品やお酒や石鹸の詰め合わせなんて物まで持った、地元住民が次々にお礼にやって来る。

令子からすると除霊よりも彼らの相手をする方が面倒で嫌なのだが、おキヌの実家でそんなことを言えるはずもなく対応しなくてはならなかった。

最終的には氷室家に地域住民が集まり宴会になってしまい、令子は田舎の凄まじさを痛感することになる。


「すいません、美神さん」

「構いませんわ。 それにしても田舎は違うんですね」

そんな状況に氷室父は度々申し訳なさそうに謝るが、令子も嫌な顔など出来る訳がなかった。

それに令子自身は田舎など経験がないので、物珍しさはあり貴重な経験だと割り切ってもいる。


「良くも悪くも助け合わないと生きて行けませんし、こう言うのは何なんですがもし村八分にでもされると大変なんです」

良くいえば地域の助け合いがある昔ながらの田舎だが、氷室父はその裏側にある難しさも令子に語り出す。

実際田舎暮らしに憧れて東京から移り住む者も居るが、大半は地域の交流の難しさと煩わしさで続かないらしい。

氷室父も好きで除霊紛いの行動をしていた訳ではなく、先祖代々そうして来た為にやらねばならない環境だったのだ。

神社が周囲の人々に村八分にされるとなると冗談では済まされないので仕方ないと笑っていた。


(おキヌちゃんの場合は田舎に帰っても除霊は辞めれない訳ね……)

そんな氷室父の話に令子はおキヌの将来を考え複雑な心境になる。

仮に令子が良かれと思っておキヌを田舎に帰しても、おキヌは除霊をしなくてはならない状況に追い込まれる可能性が高いのは令子も知らなかった。

下手をするとそのままネクロマンサーの能力を欲する人々に酷使される可能性もない訳ではない。


(結局、私と一緒に東京に居るのが一番安全なのかもしれないわね)

いろいろ予定外のことがあったこの日だが、令子はおキヌが望むままに自分の元でGSをさせるべきだろうとの考えを固めたようである。

ちなみに令子は集まった地域住民の親父達を全員潰してしまい、東京のGSは凄まじい酒豪だと噂になることになる。



64/100ページ
スキ