ゆく年くる年

同じ頃、朝から数えて三度目の露天風呂から上がった令子が氷室家に戻るとちょうど新たな来客が来ていた。

令子は軽く会釈すると氷室家の居間でおキヌや早苗と話をしていたが、氷室父と来客の話が偶然聞こえてしまう。


「うむ……、それは霊障かもしれんな」

話の内容はどうも近くの集落に悪霊が出たと騒ぎになってるとのことだ。

来客はオカルトGメンにも連絡したらしいがオカルトGメンは霊障調査の人材を派遣すると約束するも、年末年始は混み合っており早くても年明けまで無理だと言われたらしい。

氷室父はGSではないが幼い頃から多少の霊能力があり、昔から近所の簡単な除霊ならばやっていた為に頼みに来たようだった。

ちなみに氷室父の除霊行為は報酬を貰わない完全なボランティアなので犯罪ではない。

以前にも説明したがGS免許は営利目的の除霊の免許であり、個人が自分や知人の為に無料除霊する行為を禁止する法律は存在しない。

実際には危険性や万が一の場合があるので、GS協会やオカルトGメンは個人での除霊は止めて欲しいと言うが、GSが居ないような田舎では昔からあることで決して珍しいことではなかった。

何よりさほど裕福でない田舎などではGSなど頼めなく、地域の住人のボランティアでなんとか解決してる地域も珍しくないのだ。


「どの程度の霊障なの?」

さて来客の頼みに氷室父は霊障の確認に行くためおキヌ達や令子に出掛けるからと声をかけるが、令子は霊障に多少興味があるのか事情を尋ねていた。


「そう、氷室さんは家に居ていいわよ。 私が行くわ」

「それは有り難いのですが、場所が長年空き家だった家ですから報酬が出せないんですよ」

「構わないわ。 ちょうど暇だったしおキヌちゃんの修行にもなるわ」

氷室父は来客から聞いた話を令子にするが、令子は珍しく自分から除霊に行くと告げるとタダでいいと言い切る。

流石に氷室父は令子ほどのGSにタダでは頼めないからと遠慮するが、令子は暇つぶしになるからと告げて喜ぶおキヌと見学の早苗を連れて自ら来客と一緒に霊障の現場へ向かう。


「いや~、まさか東京のGSが助けてくれるなんてな」

「この近くにGSは居ないの?」

「何年か前に居たんだども、商売にならないからって引っ越して行っただ」

予期せぬ令子の行動に、氷室父に頼みに来た来客も驚き喜んでいる。

テレビでたまに見る有名人の令子が、まさか氷室家に滞在していてタダで助けてくれるとは信じられないらしい。


「まあ私も普段は無料で仕事はしないわよ。 一度やると似たような仕事が来てキリがないもの。 今回は特別よ」

実際令子としてはただの気まぐれの行動であり、特に助けたいと考えた訳ではなかった。

それ故に来客の男性にも、特別だからと念を押すことを忘れない。

相変わらず雪が降り続いている田舎道を来客の車で現場に向かう令子は、来客の感謝の気持ちが少しうざかった。



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