ゆく年くる年

「人間界の御神酒や神の祝福を受けたワインなんかは私も何度か見たことありますが、神界の御神酒なんて始めて見ましたよ」

「そんなに珍しいんっすか?」

「珍しいと言っていいレベルの品ではないかと……」

神々しい神気を放つ竜神族の御神酒に、魔鈴は唖然としてしまい横島はポカーンとしている。

どう考えてもクリスマスプレゼントのお返しには不釣り合い過ぎる品物なのは確かであり、何故誰も止めなかったのか魔鈴は不思議で仕方ない。

ただ価値観の違いは恐ろしいモノで天龍童子にとっては特別珍しい物ではなく、父である竜神王が好きでよく飲む酒という感覚でしかなかったりする。


「……お返しどうしましょう」

パピリオと天龍童子の気持ちを嬉しく感じる魔鈴だったが、同時に頭を痛めたのは天龍童子へのお返しだろう。

正直神界の御神酒と釣り合うお返しなど全く思い浮かばないのだ。


「お返しもそうだけど、そろそろお店開ける時間よ」

朝から予期せぬプレゼントに驚きでいっぱいだった魔鈴や横島だったが、時間はそろそろ開店の時間だった。

御神酒はとりあえず魔鈴の両親の仏壇にお供えすることにして、横島達は慌ただしく開店の準備に取り掛かる。



「いや~、朝から温泉で一杯ってのも格別ね」

一方氷室家を訪れていた令子は、この日も朝から温泉で熱燗を飲んで上機嫌だった。

令子自身は来る前はあまり乗り気では無かったのだが、来てみると結構気に入っている。


(いい家族ね。 本当におキヌちゃんをGSにしていいのか悩むわ)

令子が上機嫌な理由は氷室夫妻の対応にも理由があった。

他人の家だし令子ですらも多少は気を使ってはいるが、氷室夫妻は令子に対しあまり大袈裟にはせずに普通に接していることがよかったのだろう。

ちなみに氷室夫妻の態度の訳については、氷室家には日常的にお客や友人が尋ねて来ることが多いらしく慣れてるらしい。

麓の集落からは少し距離がある氷室神社だが、地域の人達や友人知人の交流の場にもなってるのだ。

それは神社建立当時から変わらないことなのだと氷室夫妻は語っていた。


(三百年もの間、地域で神社を守って来たってわけね)

神社建立の目的も理由も伝わらなかった三百年先の現代でさえ、人々は当然のように氷室神社に集まり時を過ごしている。

それはかつて神社を建立した導士と姫の、強い想いの結果なのかもしれないと令子は思う。

幼い頃より普通の家庭の幸せを知らない令子にとって、そんな氷室家の人々は少し羨ましくなるほど暖かい空気に包まれている。

赤の他人の令子をまるで娘か親戚のように扱う氷室夫妻に、令子は普通の家庭の暖かさを始めて知った気がした。

実の母親である美智恵とはどこか距離というか壁がある令子にとって、おキヌと氷室家は数少ない素の自分を見せることができる相手なのかもしれない。


(今日はクリスマスか……)

久しぶりに気分がいい令子は温泉と熱燗の暖かさに酔いながらクリスマスイブの日を過ごしていく



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