ゆく年くる年

一方クリスマスイブを前日に控えた唐巣の教会では、エミ・愛子・小鳩の三人が忙しそうに料理を作っていた。

業務用で無ければ使わないような大きな鍋で豚汁を作り、他にもおかずなどを大量に作っている。


「エミさんがお仕事休んでまで、手伝いに来てくれるとは思いませんでした」

「私は声を掛けてくれればいつでも来るわよ」

忙しそうに調理するエミ達の元にピートが様子を見に来ると、エミはすかさず満面の笑みで自分をアピールした。

若干戸惑い気味のピートだが、最近エミには世話になりっぱなしなので無下にも出来ない。

実は今日からクリスマス本番までの三日間は、ピートの発案で近所の人や唐巣がかつて除霊した依頼人などを誘ってクリスマスミサと食事会をしようということになったらしい。


「でもクリスマスに豚汁って微妙じゃない?」

「うちは近所のお年寄りの方がよく来ますから、和食も用意したいんです」

エミにアピールされるピートに愛子はメニューについて疑問をぶつけるが、ピートはあまり形にこだわる気はないようだった。


「わざわざありがとうございます。 ゆっくりして行って下さい」

一方の唐巣は教会の礼拝堂で訪れる人々の相手をしていた。

今回ピートが考えた食事会とミサに唐巣は即座に賛成して、自身もこの三日間はGS協会の仕事を空けて協力している。

資金面でも魔鈴やエミから流れている仕事のおかげで余裕があり、人々に利益を還元する意味でも唐巣は今回の企画に賛成だった。


「やあ、忙しい時期に来てくれてありがとう」

「近くに来たので差し入れです」

そのまま教会では近所の人やかつての依頼人などが食事をしながら話をして交流を深めるが、そんな時に教会にやって来たのは美智恵である。

クリスマスケーキを二つばかり差し入れとして持参した美智恵は、和やかな教会内を見て少しだけ複雑な表情を見せてしまう。


(これがピート君が選んだ道なのね)

唐巣の教会では例年ではクリスマスミサは開くが、基本的にはかつて唐巣が除霊した依頼人や霊障に困っている人が何人か来る程度だった。

それが今年は料理やお酒まで出して楽しく和やかな食事会になっている。

それはクリスマスミサ本来の雰囲気とは微妙に違うが、ピートの目指す理想が美智恵には垣間見えていた。


「君も一緒にどうだい? 今までにない何かが見えるかもしれないよ」

美智恵の複雑そうな表情の意味を理解するが故に、唐巣は美智恵にも一緒食事を勧める。

美智恵に欠けてるモノを唐巣はよく理解してるし、今からでも遅くないとも考えてるらしい。


「せっかくだけと、この後も予定が詰まってるわ。 ごめんなさい」

差し入れのケーキを渡した美智恵はいつもと変わらぬ笑顔を見せて帰っていく。

一人教会を後にする美智恵の後ろ姿に唐巣は言葉に出来ない無力さを感じるが、最早どうしようもないことだった。


(美智恵君は相変わらずか……)

ピートは自分の道を見つけ進み始めたが、それは美智恵の道とは掛け離れたものである。

唐巣は美智恵がもう少し他人を信用して心を開けば、きっと別の未来が待ってると思うとやはり残念で仕方なかった。



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