ゆく年くる年

「サンタクロースへの手紙ですか」

その後和やかな夕食を終えた横島達はリビングでゆっくりとこの日の疲れを癒すが、魔鈴は先程の子供の手紙を見て少し感慨深げな表情をしていた。


「私も孤児院に居た頃、小さな子供達と一緒にクリスマスにサンタクロースに手紙を書いたことがあるんです」

少し懐かしそうに昔を思い出していく魔鈴だが、その時に多くの子供達が書いた内容は偶然にも同じ院長先生達にもプレゼントをあげて欲しいという内容だったらしい。


「みんな子供ながらに自分の境遇を理解していたのでしょうね。 それに院長先生達大人が毎日苦労していたのも、みんな感じていたようです」

年齢的にもサンタクロースを信じていたことからかなり幼い子供達だったのだろうが、院長先生達はその手紙の存在を知ると涙を隠しきれなかったという。

当然子供達の気持ちは嬉しかったようだが、それと同様にあんな小さな子供がワガママを言えない境遇なことにも何とも言えない感情が込み上げて来たらしい。


「凄い子供達っすね。 俺なんてそんな年の頃は……」

「境遇の違いなんだと思います。 院長先生はそれ以来、子供達にワガママを言ってもらえるようにしたいと言ってましたしね」

今日の手紙の子といい孤児院の子といい、他の子供達と比べて思わず自分の過去が恥ずかしくなる横島だが、魔鈴はそんな横島に境遇の違いなのだろうと語る。

ただこの話には後日談がありその手紙の数日後に、孤児院のOBの一人が話を聞き院長先生達大人にクリスマスプレゼントとして旅行をプレゼントしたという結末があった。

無論子供達にはサンタクロースからのプレゼントだと伝えられ子供達が大喜びしたのは、今でも院長先生や当時の子供達の強烈な思い出として残ってるようだ。


「あの時に手紙を書いたみんなも今は高校生か社会人です。 でもあの時の思い出が忘れられずに、あれ以来OBが年一回院長先生達に旅行をプレゼントするのが続いてるんですよ」

実際に子供達がいつサンタクロースの存在を信じなくなったかは分からないが、それでもあの時子供だった者はあの強烈な喜びが忘れられないと今でも語っているようだった。

その半面で当時旅行をプレゼントしたOBはさほど深く考えていた訳ではなく、たまたま懐が温かかったので軽い気持ちで旅行をプレゼントしただけなんだと今では笑い話にもなってるらしい。


「こんな手紙を書く子供のご両親ならば、きっと子供にいい思い出が残るようにすると思いますよ」

昔話を語り終えた魔鈴は手紙を受け取り微妙に悩む横島に、第三者が介入しなくてもいい結果を両親が用意するだろうと言い切る。

それだけ手紙を書いた少女は優しさに包まれているのを、魔鈴はその手紙からヒシヒシと感じていた。


「そうかもしれないっすね」

きっとあの少女は今頃サンタクロースに手紙を渡せただけで喜んでいるだろうと思うと、横島はよかったと一安心し自分も嬉しくなる気がした。

ただ同時に今日初めて出会った他人の幸せを喜べた自分に気付き、素直に驚きを感じてしまう。

自分はいつからそんな人間になったのだろうかと考えると、不思議で堪らなかった。



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