ゆく年くる年

さてクリスマス期間の横島達はといえば、開店直後から店は満席の状態が続いていた。

魔鈴とタマモは厨房で料理を作り、シロと黒猫とほうきの使い魔達はフロアで料理を運んだりと忙しく働いている。

横島は主に出前をしていたが、この日は余りの忙しさに雪之丞まで皿洗いなどを手伝っていた。

昨年は魔鈴が一人で営業するつもりだったので予約数をセーブしたりしていたが、今年は横島達も居るのでクリスマスケーキや料理の配達まで予約で受けた結果大忙しになっているのだ。


「次はあっちか……」

そんな忙しいこの日横島は魔法のほうきに乗りサンタクロース姿で配達をしているが、主に子供には大ウケだった。

トナカイとソリではないが空を飛んでサンタクロースがやって来る姿は、子供達にサンタクロースは実在するとの夢を与えるには十分なようである。

しかも注文された料理の他に、サービスとしてクリスマスのデザインの文具をプレゼントしていた。

それほど高い物ではないが、小学低学年以下の子供達には評判がいい。

加えてサンタクロースの姿をした横島が空を飛んでるといつもに増して注目を集めてしまい、道ゆく何も知らぬお年寄りに拝まれたのは流石に横島も驚いてしまったが。


「実際サンタクロースは実在するんだよな~ ガラが悪くて夢が壊れるけど……」

子供達の笑顔や客が驚く様子は、見ていて素直に嬉しかったようだ。

そんな時横島はふとかつて出会った本物のサンタクロースを思い出し、思わず引き攣った笑顔を浮かべてしまう。

世の中知らない方が幸せなこともあるとシミジミと感じながら配達をこなしていく。



「なにそれ、ラブレター?」

そのままこの日は一日中配達をしていた横島だったが、ようやく店も配達も終わり遅い夕食にしようとした頃に一通の手紙を懐から取り出す。

可愛らしい封筒に入った手紙にタマモやシロが興味津々な様子で覗きに来るが、その手紙はまだ慣れないひらがなだけで書かれたサンタクロースへの手紙だった。


「サンタさんに手紙だって貰ったんだけどさ」

それは横島が配達した先の小さな子供が、サンタクロースに手紙を渡したいと書いて用意した物らしい。

本当なら夜に来るサンタクロースに手紙を渡すつもりだったらしいが、横島が空を飛んで来たことで本物と勘違いして渡したのだ。

一緒に居た母親もよかったら貰ってあげてほしいと言うので、横島は素直に貰って来たのである。


「これって……」

慣れないひらがなで書かれた手紙を読む横島達だが、それはサンタクロースへのお礼とお願いだった。

去年のプレゼントのお礼と来年は自分のプレゼントは要らないので、お父さんとお母さんにプレゼントをあげてほしいと頼む手紙なのだ。

その内容に横島はなんとも言えない気持ちになる。


「困ったな~ 内容は気にしなくていいって言われたけどさ」

手紙については母親に文字を聞きながら書いたらしく、母親は手紙の内容を知っており貰った時に気にしなくていいと横島は言われたらしい。

まあ実際には両親がこの後フォローするのだろうが、横島はなんとなく気になってしまう。



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