ゆく年くる年

その後横島達が自宅に帰った頃には、日付が完全に変わっていた。

時間的に孤児院に泊まることも勧められたが、日頃GSの仕事で夜間の移動は慣れてることと明日の営業があるからと帰って来ている。

賑やかな孤児院に居たせいか自宅がやけに静かに感じるが、それだけ孤児院に居た時間が濃密だったということだろう。

実家がない魔鈴にとってはあの孤児院が実家のようなものだし、この日の魔鈴はやはりいつもより嬉しそうだった。



そして次の日になると、この日から魔法料理魔鈴はクリスマス期間に入る。

すでにクリスマス期間は予約でいっぱいとなっており、この一年の地道な営業の成果とも言える状況になっていた。

街はクリスマス一色に染まり、この期間は横島もサンタクロースの衣装を来て出前の配達をする予定である。


そんなこの日も横島は朝から忙しく、横島とタマモは朝から仕入れに市場へ出かけており、魔鈴とシロは店で仕込みの真っ最中だ。

基本的に横島は荷物持ちなのでタマモが食材の見極めと価格交渉などをするのだが、春から度々仕入れに来るタマモは横島達が行く市場ではちょっとした有名人である。

すでに魔鈴の店の人間だと知られているタマモだが、プロの仲買人顔負けの見極めをするのですっかり顔を覚えられていた。

尻尾があるシロとは違いタマモは一見すると妖怪にはとても見えないので、市場などでは妖怪だと知られてない。

中学生くらいの容姿にも関わらず、プロのような仕入れをするタマモが目立たないはずがなかった。

正直タマモ自身は自分が目立つのをあまり好まないが、意図的に目立つことはたまにある。

今回の市場や店のある商店街では有名人なタマモだが、その件に関してはあえて警戒も隠れもしていない。

小竜姫達との繋がりなど隠すべきことは徹底的に隠すタマモだが、普段はあえて無警戒を装うのはタマモの常套手段だった。

横島は気付いてないが横島達の周りには魔鈴の技術を狙うオカルト業界の産業スパイや、横島やタマモの様子を探る存在も時折来ている。

元々タマモは自分達の周りに来る怪しい人物を密かに警戒していたが、最近は小竜姫達との連携により相手の正体や目的が判明していた。

タマモが目を付けた相手をヒャクメやジークが調べてるのだが、おかげで横島達を取り巻く状況が克明に判明しつつある。

現状では直接的な危機になるような状況ではないが、魔鈴の技術は相変わらず注目を集めているし横島とタマモも状況を調査してる者達はいたのだ。

横島とタマモの件は日本政府の組織など幾つかの組織が情報収集をしてはいたが、具体的な目的がある訳ではなく横島とタマモのコンビが密かに注目を集めてる程度だった。

アシュタロス戦での横島の活躍を知る者は予想以上に多く、その横島が妖怪をしかも金毛白面九尾を保護すれば必然的に注目を集めるのは当然なのだろう。

ただこの関係で意外だったことは、六道家が横島と小竜姫の関係を本格的な師弟だとの情報を政府など外部に流していることか。

六道家は現状では横島の周辺の変化を望んでなく、小竜姫の名前を広めることで横島達に降り懸かる厄介事を抑止しようと密かに動いているらしい。

小竜姫もタマモとの連携以降この事実を知るが、利害が一致する以上六道家の行動は黙認するつもりである。

知らないのは横島本人ばかりだった。



54/100ページ
スキ