ゆく年くる年

そしてメインの料理が横島とシロによって食堂運ばれて行くと、子供達は思わず歓声を上げる。

メインはシンプルなサーロインステーキだったが、見るからに柔らかそうでほどよくさしが入った肉に子供達のテンションが上がらないはずはなかった。

その肉は最高級ではないが、脂身のさしが最高級よりは少なく逆に肉の本来の味が美味しい物である。

魔鈴は日頃から料理によって肉の質を変えており、今回は子供達に合わせてあえてこの肉を選んでいたようだ。


「スゲー、美味しい。 もっと食べたい!」

いかに孤児院の子供達とはいえ、彼らも肉は食べれるしステーキも食べた経験もある。

しかし魔鈴のステーキは、そんな日頃の料理とはまた次元の違った味わいだった。

特に小中学生の男の子は大袈裟なほど喜び、食べ終える前からお代わりを要求する。


「お代わりしてもいいけど、この後デザートにケーキも結構たくさんあるぞ。 食えるか?」

日頃から早い者勝ちな状況なのか一人がお代わりを求めると争うようにお代わりを求め始めるが、横島はやんわりと彼らを制していく。

正直食材は余裕を持って持参しているのでお代わりは可能だが、お代わりしなくてもかなりのボリュームがあるのだ。

前菜からデザートのケーキまで考えるとお代わりをするほど食べる子は限られてくる。


「じゃあ、お代わりをしたいやつは? ケーキもあるから考えろよ」

横島の言葉を聞いてもお代わりを求める子供が多く、横島は彼らだけでなく女の子や小さい子の様子を見ながらお代わりしたい子を数えていく。

先程までは普通に客に接するように丁寧な口調だった横島も、いつの間にか地に戻って子供達の相手をしている。

それと言うのも子供達はテンションが上がるにつれて横島に絡み出したのだ。

一番多いのは魔鈴との関係を尋ねる質問であり、次に多いのが魔鈴とどこまで行ったかという質問だった。

質問のほとんど全てが魔鈴との関係なのは、それだけここでは魔鈴の存在が大きい証だろう。

横島はそんな子供達の質問を適当に交わしていたが、シロが馬鹿正直に全て話してしまうので横島は子供達の餌食になっている。

中には横島に対して魔鈴に捨てられないように頑張れよと声をかける小さな男の子が居たりと、本当に賑やかになっていた。



「あっちは賑やかになってるわね」

「みんな悪気はないんですけどね」

一方子供達が横島に絡み笑いが起こる声はもちろん厨房にも届いている。

仕方ないなと半ば呆れたようなタマモと、どこか懐かしそうな魔鈴はそんな声に思わず笑ってしまう。

ある意味横島らしいし子供達らしくもあった。

正直最後までマナーがいいまま過ぎるとは思わなかったし、これはこれでいいのだろうと魔鈴も思っている。

何より横島が子供達と打ち解けたのが魔鈴は嬉しかった。



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