ゆく年くる年

さてそんな一人一人の子供達にも様々な物語はあるが、その後もクリスマスの食事会自体は順調に続いていく。

テレビでしか見たことがないような本格的なフレンチ風の料理は、子供達にひと時の夢と限りない世界の広さを教えるには十分だった。

キッチンで料理を作り続けている魔鈴とタマモも、食事をする子供達の嬉しそうな声が聞こえるとどこかホッとした様子である。


「私も年を取ったんですかね」

そのままメインの調理に取り掛かろうとした魔鈴は、ふとガスコンロの近くの壁に貼られた古ぼけた火の用心の貼紙を見て、思わず昔を懐かしむように思い出してしまう。

魔鈴が孤児院を出てすでに五年ほど月日が過ぎているが、孤児院の中はほとんど変わってないのだ。

特別意識してる訳ではないが、ふとした瞬間に昔の出来事が蘇ってしまうらしい。


「私が料理を覚えたのはここに来てからなんですよ。 魔法を料理に生かそうと思ったのもここでの経験が元にあるんです」

昔を懐かしむように語り始めながらもメインの調理を始める魔鈴は、時折言葉を止めて調理するほど真剣に調理をしている。

そんな中でも魔鈴はゆっくりと過去のことを語っていく。

以前にも説明したが高校時代の魔鈴はオカルトの勉強はしたかったが、GSになりたい訳では無かった。

そんな魔鈴はイギリスの大学に進学した後も変わらず、ただ勉強と研究に時間を費やしていたらしい。


「GS免許はイギリスで取得しましたが、目的は研究資金稼ぎでした。 私の場合は研究資金の提供をしてくれるとの話も多かったのですが、自由に研究するには自分で資金を稼がないとダメでしたから」

元々魔鈴が興味が無かったGS免許の取得に踏み切った理由は研究資金の確保だった。

周囲が驚くほどの才能を開花させた魔鈴だが、研究課題が中世以前の魔法技術だった為にいろいろと風当たりが強いこともあったらしい。

幼い頃に両親を亡くした魔鈴は早くから世間の冷たさと怖さを知っていた為、研究資金の援助などの話も全て断っていたようである。


「私がレストランを開きたいと思ったのは、大学三年を過ぎた頃でした……」

そんな勉強と研究が中心の大学生活を送っていた魔鈴だが、三年を過ぎた頃になると卒業後を真剣に考えなくてはならない。

同じ大学のオカルトゼミの学生の大半は研究者かオカルト企業への就職だった。

もちろん魔鈴には研究者としての道もあったし少なくないオカルト企業から誘いもあったが、イギリスで数年オカルトを学んだ魔鈴が求めたのはやはりオカルト業界では無かったのである。

孤児院での生活で自然と身についた料理と、多くの仲間が美味しそうに食べてくれる姿が魔鈴は忘れられなかったらしい。


「そこで思ったんです。 私にしか出来ない道に進もうと……」

オカルト業界は自分の進むべき道ではないと悟った魔鈴は、自身が学び研究したオカルト技術を一般の生活に活かせないかと考えたのだ。

幸い現代に残る中世ヨーロッパの魔法の資料は生活に密着したものが多かったことから、魔鈴はそれに現代の知識や技術を加えて魔法料理を確立させたのである。



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