ゆく年くる年

その後も子供達が食べる姿を見ながら料理の説明などしていた横島とシロだったが、ふと気が付くと三歳か四歳くらいの女の子が一人だけ全く料理に手を付けてなかった。


(あの子……)

その少女の纏う空気に、横島は一瞬引き込まれるように見入ってしまい驚きを感じてしまう。

楽しげな笑顔の子供達の中で、その少女だけがまるで別世界に居るかのように無表情なのだ。

そんな少女を心配したシロが声をかけようとするが、とっさに横島が無言で止めていた。


「先生……」

無表情な少女に声をかけるのを止められたシロは理由を尋ねるように横島を見るが、横島は周りの子供達や孤児院の院長先生達などの大人に視線を向けてシロに止めた理由を理解させようとする。

それというのも大人達は元より同じ子供達ですら、その少女を心配して静かに見守っているのだ。

無論横島も事情は全く知らないが、何か訳ありなのだとは悟っている。


(絶望か……)

まるで絶望に染まってるような少女の瞳に隠された闇の深さに、横島はどこか共感するものを感じてしまう。

そして彼女は一人ぼっちなのだと理解していた。

理由はわからないが、周りの全てを拒否して自ら望んで一人になっているのだと横島は自然と理解出来てしまった。

横島自身は何故彼女の気持ちを理解できるのか自分ではわからないが、それは彼女が少しだけ似ているからかもしれない。

アシュタロス戦後の横島の姿に……。


「久美子ちゃん食べないの? 美味しいよ」

そのまま横島やシロが見守る中、少女に声をかけたのは隣に座っていた小学生くらいの女の子だった。

女の子は少女に優しく声をかけ、少女が自発的に食べるようにゆっくり言葉を紡いでいく。

それは頑張れとか元気だしてなどの言葉で囃し立てるのではなく、少女に気持ちになり一緒に一歩ずつ歩幅を合わせて歩いてるようだった。


「……おいしい。 でもお母さんのご飯の方がもっとおいしかった……」

穏やかな表情のまま少女に寄り添うような女の子に、少女はようやく料理を食べた感想を口にする。

少女の表情には決して笑顔はないが、それでも全てを拒絶するような少女が一歩だけ前に進んだのは確かだろう。

横島達と同じく少女と女の子を見守っていた院長先生や大人達がホッとした表情をしていることからも、少女が今までいかに他者を拒絶していたかがよくわかる。


「先生……、あの子は……」

「苦しい時に一人じゃないってのは重要なのかもな。 それにここが魔鈴さんの故郷なのもよくわかるよ」

前菜もほどよく食べており横島とシロは食堂からキッチンに戻っていくが、廊下に出たシロは思わず泣きそうな表情になってしまう。

少女の悲しみを感じてしまったシロは、他人の少女の悲しみを自分の悲しみのように受け止めている。

横島はそんなシロに、あの子はもう大丈夫だからと笑顔を見せて言い切っていた。

それは特別な理由がある言葉ではないがここの孤児院は少し魔鈴の纏う空気に似ており、今の横島達の空気にも似ているからかもしれない。



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