ゆく年くる年

そのまま調理は続くが、完成が近付く頃になると子供達はキッチンから出されてしまう。

残りは出来た時のお楽しみということで、孤児院の先生が子供達を一旦キッチンから連れ出していたのだ。

美味しい匂いがすでに孤児院内に広がる中でお預けをくらった小さな子供達は抗議するように騒ぐが、年長の子供達が彼らを宥めるようにして料理の完成を待つことになる。



さて今回魔鈴が作った料理は本格的なフレンチやイタリアンではなく、日本式の洋食などをフランス料理のように盛り付けした料理だった。

いわゆる子供が好きそうなメニューを選んで、本格的な盛り付けで出す予定なのである。

当初は本格的なフレンチやイタリアンも考えてみたが、あまり馴染みのない味が子供に受け入れられるかは正直微妙なのだ。

その点洋食は日本人の舌に合った料理であり、それを中心にコース料理を組み立てたのでボリュームも味もこの日のために魔鈴が考えた特別メニューだった。


「思わぬところで先日のハロウィンの経験が役に立ちましたね」

調理も終盤に差し掛かりまずは前菜から盛り付けをしていく魔鈴とタマモだが、実は今回の料理は前回のハロウィンの経験が地味に生きている。

あの時も子供向けのメニューを考えたので、今回は割と苦戦することなくメニューが決まったようなのだ。

企画を考えた横島もメニューを考えた魔鈴もこんな事態を想定した訳ではないが、地味に経験が役に立っていた。


「では、横島さんとシロちゃんお願いしますね」

前菜が完成すると魔鈴は孤児院の先生に話し、子供達をいつも食事してる食堂に入れてもらう。

どうやらこの日は魔鈴の料理をメインにクリスマスパーティーを開くらしく、食堂はクリスマスツリーを始め子供達による飾り付けで華やかになっていた。

完成した料理を運ぶのはもちろん横島とシロの役目だが、二人は店で来てるような服に着替えており横島はウエイターのような服にシロは魔鈴と同じ魔女の服である。

そんな二人が料理を運ぶと子供達の料理を期待する熱い視線が注がれるが、フランス料理のように盛り付けされた前菜に驚きの声と拍手で沸き上がった。

それは決して特別な盛り付けなどではないが、子供達の中にはテレビでしか見たことない者も居るのでその喜びようは理解できるだろう。

せっかくだからと店からナイフとフォークなども持って来ており、形としては本格的なフランス料理と同じだった。


「では、皆さんいただきましょう。 ナイフとフォークの使い方は大丈夫ですね?」

前菜が全員に行き渡ると院長先生の言葉で食事は始まるが、どうやらこの日のためにテーブルマナーを勉強していたらしい。

それは決して器用にナイフやフォークを使ってる姿ではないが、それでも本格的な料理に子供達の目は眩しいほど輝いている。

店の客も料理が美味しいと笑顔になることはあるが、横島とシロは子供達のあまりの喜び方にこの仕事をして本当によかったとの充実感で心が満たされていた。




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