ゆく年くる年

横島の笑えない話をしながらも車は順調に進んでいく

安全第一と言わんばかりのゆっくりとした運転だが、大きなトラブルもなく都内を出て神奈川に入っていた

孤児院は神奈川県の少し田舎にあるらしく、カーナビを見ながら走っている


「おっ、海が見えるぞ」

「ええ、孤児院は海から近いんです。 休日にはみんなで釣りに行って、釣った魚を夕食にするなんてこともよくありましたよ」

孤児院まで後少しというところで、車は海沿いの道に入っていた

左側には綺麗な海が広がっており、魔鈴は毎日のようにこの海を見て育ったのだと懐かしそうに語る

育ち盛りの子供が多い孤児院では海で釣れる魚も貴重なおかずになるらしく、天気のいい日はよく釣りをしていたらしい



そのまま少し走ると横島達の車はいよいよ孤児院に到着するが、孤児院の建物は木造二階建ての田舎の学校のような建物だった

恐らく結構な年代物の建物のようだが特に痛んでる様子はない


「魔鈴姉ちゃん!」

車を駐車場に置き魔鈴が降りると孤児院の玄関から十人以上の子供達が走って来る

どうやらずっと魔鈴が到着するのを待っていたらしく、待ちきれないと言わんばかりの表情で駆け寄って来ていた


「みんな元気にしてた?」

「うん! 元気だよ!!」

「姉ちゃんのために朝から釣りして大物釣ったんだよ」

男の子も女の子も関係なく駆け寄って来た子供達に、魔鈴はあまり他人には見せないような無邪気な笑顔で答えている

横島達はそんな魔鈴を何度か見たことはあったが、それでもここが魔鈴の故郷なのだとシミジミ実感していた


「遠いところお疲れ様でした。 今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。 キッチンはどこですか?」

そんな魔鈴が子供達に囲まれてるのを邪魔しないように車の中で見ていた横島達だったが、その間に孤児院の院長先生が横島達の元に挨拶に来ていた

笑顔で腰が低くく挨拶をして来る院長先生に、横島もまた恐縮した様子で挨拶を返して食材などの荷物をキッチンに運び出していく

途中荷物を運ぶ横島達にも多くの子供達の視線が集まるが、流石にすぐに駆け寄って来る者はいない

ただ魔鈴と一緒に来ただけに何かと注目を集めてるようだ

「それじゃ、始めましょうか」

横島達が荷物をキッチン運んでる間に、子供達に囲まれていた魔鈴が戻って来る

相変わらず子供達を引き連れており、キッチンの入口の辺りは子供達でいっぱいだった

どうやら子供達は魔鈴が料理するのも見ているつもりらしいが、彼らの視線は魔鈴の次にシロの尻尾に集まっている


「あれなに?」

「東京じゃ、あんなの流行ってるの?」

子供達もまさか尻尾が本物だとは思わないらしく、新手のファッションかなんかだと勘違いしてしまう

妖怪を知らぬ訳ではないのだろうが、尻尾以外は人間と区別出来ないシロなだけにまさか妖怪だとは思いもしないようだった


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