それぞれの想い

一方、唐巣達が去った店内でも横島の過去が語られていた


「私は昔の横島さんをほとんど知りませんので、他の方から聞いた話もあります。 その辺ご理解下さい」

前置きをした上で魔鈴は語り始める


「事の始まりは、魔族による核ジャック事件と大霊症と呼ばれる災害から始まります。 あの事件と災害には、世間に知らされてない真実があるんです」

魔鈴の言葉に何も知らない銀一達とシロは息を飲む

一方、真実を知るメンバーは複雑な表情を浮かべて静かに話を聞いていた


「あの事件はアシュタロスと言う最上級魔族と、美神令子さんの個人的争いが原因なんです」

知っているはずの事実を説明するだけなのに、魔鈴の心は苦しくなる気がした

他者に説明するのはタマモや人狼の件もあるので初めてではないが、今でも苦しく感じてしまう


アシュタロスは望み通り永遠の眠りにつき、令子は未来を勝ち取った


犠牲や被害もかなり多かったが、3界の危機と考えれば少ない方だろう

だが忘れてはならないのは、これは世界の問題ではなくアシュタロスと令子の個人的な問題でもあるのだ
 
見方を変えれば、二人のワガママにより数多の犠牲や被害を出したとも言える


「私も詳しく知りませんが、原因は美神さんの前世らしいです。 美神さんの前世がアシュタロスから魂の結晶と言うアイテムを盗んだそうです。 あの事件は、魂の結晶を取り返そうとしたアシュタロスと、美神さんの戦いだったんです」

それから魔鈴はアシュタロス戦の内容を語っていく

偶然か運命か、敵に捕まった横島と出会った魔族の女性のこと

美智恵の陰謀によりスパイとして送り込まれて、敵と一緒に捨て駒にされたこと

魔鈴が知る範囲の事実を淡々と語った


「出会いは運命だったのかもしれません。 彼女の名前はルシオラさん。 横島さんの恋人です」

魔鈴はルシオラのことを、あえて過去形にしなかった

横島にとってルシオラは今でも恋人だし、それは魔鈴とて同じ気持ちなのだ


横島の隠された過去に驚きが収まらない銀一達やシロ、まさかこれから更に厳しい現実になるとは思ってもないだろう


一方、ベスパは別の意味で驚きを感じていた

先程パピリオに聞いていたとはいえ、人間の魔鈴がルシオラを横島の恋人と言い切ったことが信じられない

上辺だけの言葉や態度ではなく、魔鈴が本当にルシオラのことを受け止めてることをベスパは強く感じていた


「横島さんとルシオラさんには、ここから更に試練が待ち受けてます」

聞いてる話を必死に理解しようとする銀一達とシロに、魔鈴はその後を語っていく


南極でアシュタロスと戦い、横島の閃きとルシオラの協力によりかろうじて危機を防いだ人間達

そして横島とルシオラに訪れたつかの間の幸せ


静かな店内に魔鈴の声が響く中、銀一達は理解していた

この場にルシオラが居ない意味を……

愛子と小鳩は涙を必死に抑えて聞いてるし、貧ですら複雑そうな表情で黙って聞いている


(先生……)

そんな中、逆に悔しさが込み上げていたのはシロだった

師と仰ぎなが、何も知らずに力にもなれなかった自分が悔しくてたまらない



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