ゆく年くる年

映画鑑賞から数日後のクリスマスまであと数日と迫ったこの日、魔法料理魔鈴は臨時休業になっており魔鈴達は朝から料理の仕込みやクリスマスケーキ作りをしていた

実はこの日は魔鈴の育った孤児院に料理を作りに行く日なので、あらかじめ店で料理の基本的な仕込みやクリスマスケーキ作りをしていたのだ

もちろんクリスマスケーキも魔鈴の手作りであり、大きなケーキが何個かとそれぞれ一人に一つずつの小さなケーキの二種類作っている

こんな日くらいは好きなだけ食べれるようにと、魔鈴は料理やケーキをかなり多めに作っていた

ちなみに料金はきちんと貰っているが、当然裕福ではない孤児院なだけに明らかに原価割れをしている

正直魔鈴にとっては故郷や実家のようなものなので無料で引き受けてもいいのだが、孤児院の院長先生が自費から費用を出していたのだ

魔鈴も一度は無料でいいと言ったのだが、お金の問題はきちんとしたいからと言われて受け取ることにしていた

その結果魔鈴としては料金以上の料理を作って恩返しをすることにしたらしい


「料理作りに行くのは初めてなんっすか?」

「いえ日本に帰国してレストランを開いた頃に一回と、去年も一回くらい料理を作りに行ってますよ。 ただ本格的な料理ではなかったので、本格的な魔法料理は今日が初めてなんです」

横島は知らなかったが、魔鈴は年に一回ほどの割合で孤児院を訪れて料理を作っていたようだ

だがそれは流石に本格的な魔法料理ではなく、普通の料理だったようだが……


「へ~、そうなんっすか」

「私にとっては実家のようなものなんです。 裕福とは言えませんが、賑やかで楽しい日々でしたよ」

日頃料理をする魔鈴は楽しそうなのだが、この日の魔鈴はいつもよりも幾分嬉しそうだった

幼い頃より育てて貰った孤児院に、自分の生み出した魔法料理で恩返しできることが何より嬉しいのだろう


「昔は私が待ってる側だったんですよね。 時々OBの方が珍しいお菓子などを差し入れしてくれたりするんですが、それが楽しみだったんです」

料理をする手は止まることなく動いてるが、そんな中でも魔鈴は幼い頃を思い出し感慨深げな表情を見せる

両親も居なく頼る親戚も近くにはない魔鈴の幼い頃は他人から見ると決して幸せだとは言えない境遇だったが、それでも魔鈴自身は自分は幸せだったと言い切っていた

それだけ孤児院の人々は魔鈴に人並み以上の愛情を注いだのだろう

ちなみにこれは以前にも少し説明しだが、魔鈴にも付き合いがある親戚が僅かに存在する

だがそれは日本の親戚ではなく遠くイギリスの親戚だった

かつて両親を失った魔鈴が引き取り手が居なく孤児院に入ったと知ったイギリスの親戚が、一緒に暮らさないかと何度か誘ってくれたことがあるのだ

その時は魔鈴が両親の思い出の残る日本を離れることを出来ずに拒否したので実現しなかったが、その後もイギリスの親戚は魔鈴が唯一連絡を取り合う親しい親戚になり、魔鈴の学費を援助してくれたりイギリスの大学に進学する話を勧めてくれたりと少なからず交流がある


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