ゆく年くる年

この時ピートは純粋にただ一途に一流のGSを目指す雪之丞が少し羨ましく感じてしまう

雪之丞ならばいずれその努力が実れば多くの人々に認められるかもしれないが、ピートは自身にはそんな未来はありえないと考えているのだから

いくら努力してもピートはブラドーの息子として見られ吸血鬼として見られる

努力して得た力を世間に見せれば見せるほど、人々は吸血鬼に対して警戒心を増していくのだ

純粋に努力してそれを発揮できる未来がある雪之丞が、ピートは思わず羨ましいと感じてしまった


(越えられない壁ですかね……)

現状はピートを理解して努力を認めてくれる人々が多く居るが、それがこの先も続くとは限らない

共に学び戦った今の仲間達が亡くなれば、自身の立場がどうなるかなどピートにも分からないのだ

誰にも言えない恐怖をピートは人知れず感じずにはいられなかった


「お前自分だと気付いてないかもしれんが、不安が顔に出てるぜ」

人と吸血鬼の越えられない壁に密かに頭を悩ませるピートだったが、そんなピートを現実に呼び戻したのは雪之丞である

ピート自身はいつもと変わらぬ様子でいたつもりだし、実際それほど不安そうにしていた訳ではない

だが雪之丞は見た目に反して人の表情や心理に敏感だった


「いや、僕は……」

「何を考えてるかまでは知らんが、お前を見てると横島がタマモやシロに神経質になるのも分かる気がするよ。 そんなに人間が怖いか?」

突然雪之丞に心を見透かされたようなピートは戸惑ってしまうが、雪之丞は更にピートの不安の原因に踏み込んでいく

基本的に他人には一定以上踏み込まない雪之丞の突然の指摘に、ピートは驚きを隠せないまま無言であった


「気付かれてないと思ってたのか? 多分横島達も気付いてるぞ。 俺だって気付いてるんだからな」

ピートの人の良さそうな笑顔に隠された人間に対する恐怖に雪之丞は以前から気付いていたようだ

元々幼い頃に母親を亡くしてからは人間の嫌な面を多く見て来た雪之丞なだけに、ピートの人間を恐れる気持ちに共感する部分もある

それにタマモやシロとも一年以上の付き合いであるだけに、ピートの予想以上に雪之丞は人外の気持ちを理解していた

人外に対して非常識とも言える横島の存在により目立ってはないが、横島を除けば一番妖怪側を理解してるのは雪之丞だったのだ


「余計なことを言って悪かったな。 ただ気をつけた方がいいぜ。 人はお前の心の弱みに付け込むからな」

驚くピートに雪之丞は少し済まなそうな表情を見せて一言忠告すると、再び読んでいた本に視線を戻す

それが雪之丞なりのアドバイスだったことに気付いたピートは無言のまま静かに頷いていた

決して人を信頼しろとも言わないし自分を信頼しろとも言わない雪之丞は、ある意味横島よりも現実を知っている

そして横島や人間に対して警戒心が強いタマモが、何故雪之丞を信頼するのかピートは改めて理解していた



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