ゆく年くる年

その日の夕食は相変わらず凄まじい風景だった

例によって横島・シロ・雪之丞・タイガーの四人が、我先にと争うようにガツガツと食べているのだから当然だろう

お代わりは十分にあると分かっていても彼らは食べ方が変わらないのだが、最早魔鈴も自宅では注意する様子はない

流石に外食の時は食べ方やマナーを注意するが、自宅ならば好きなように食べればいいと半ば諦めの境地に達している

最近は魔鈴でさえも楽しく食事をするのが一番だと考え始めており、若干横島の影響を受けたのかもしれないが……


「タイガー、お前相変わらず食い物に困ってるのか? 最低限ちゃんと飯食わんとダメだろ」

賑やかな食事は進む中で人一倍よく食べてるのはタイガーである

栄養がどうとかカロリーがどうとか呟きつつ食べる光景は見慣れたものだが、いい加減自分の食事にも金を使えと横島はタイガーにダメ出ししていた

元々は一緒にお腹を空かせてた仲間なのだが、真実は真逆であり本当に食事するお金がなかった横島と食事にお金を使わないタイガーは似て非なる立場だったのだ


(横島さんも人のこと言えないんですけどね……)

言ってることは紛れも無く正論なのだが、そもそも無理や無茶だと言うなら以前の横島の方が遥かに上である

睡眠時間を削って自分の身体を痛めつけるような無理な修行を重ねていたし、食事だってロクに食べてなかった

そのあまりの酷い生活に魔鈴が一緒に住むことを即決したのだから、よほどの状況だったのだろう

実際横島は霊能力を過信していたし、霊能力からくる自身の驚異的な回復力に甘えていたのだ

正直よく無事だったというのが魔鈴の意見であり、霊力で無理矢理回復させて体調を良く見せるのは身体を蝕む麻薬のようなモノなのである

それをまるで自分のことなどなかったかのように棚に上げて正論を口にする横島に、魔鈴は密かにため息をついたのは言うまでもない


「横島、人のこと言えるの?」

「俺は本当に金がなかったが、タイガーはちゃんと給料もらってたんだから立場が全く違うんだよ」

一方魔鈴はあえて言わなかったことを当然のように指摘したのはタマモだったが、横島は自身とタイガーの収入の差から立場が違うと言い切るが魔鈴やタマモからすると屁理屈にしか思えない

まあ確かに母親からは仕送りを最低限にまで減らされて、令子からも時給を最低限にまで減らされた横島と普通に収入があるタイガーの状況は違うが、それでもアシュタロス戦後の横島はそれ以上に酷かったのだ

タマモ自身も横島に騙されていた訳だし皮肉を込めて言ったのだが、横島は皮肉だと気付いてなかった

魔鈴とタマモはそんな横島に思わず顔を見合わせ、複雑な表情を見せたのは言うまでもない

もしも横島が魔鈴と関わらなければどうなっていたのだろうか……

魔鈴とタマモはそんな有り得た未来を考え、偶然か運命か知らないが現状の出会いに感謝せずにはいられなかった



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