それぞれの想い

「確かに横島君の行動は問題が多かった。 しかし、それは美神君も同じだ。 美神君は脱税や法律違反は日常茶飯事だし、それに美神君は暴力が酷い。 自分が気に入らないと横島君によく暴力を振るっていたよ。 そんな不器用で人を寄せつけない美神君に近付いた、数少ない人間が横島君だ」

最早二人は唐巣の話の腰を折ることはなかった

自分達の知る美神令子とあまりに違う真実に、何を信じていいかわからないのかもしれない

唐巣が令子の師匠であり、GS業界の重鎮で無ければかおりは話を聞かずに相手を殴っていたかもしれないが


「互いに不満や憤りなどありながらも、二人はある事件まではそれなりに信頼関係があった。 それが核ジャック事件と大霊症だ」

話がアシュタロス戦に入ると、雪之丞とタイガーの表情が微妙に変わる

あまりに重く悲しい現実に二人は最早何も言葉が出ない


「あの事件、世間では美神親子が解決したことになってるが事実は違う。 あの事件を解決してアシュタロスを退けたのは横島君と彼の恋人なのだよ」

「はぁ!?」

「何を突然……」


淡々と語る唐巣の言葉に驚き声を上げた魔理とかおり

現実を知らず甘い理想しか知らない二人にとって、その真実はまさに自分の耳を疑いたくなる言葉だった


唐巣はそれからアシュタロス戦の真実を隠すことなく語っていく

世界を救ったと信じていた令子が世界を危機に陥れていた原因だったこと

そして愛する二人の厳し過ぎる現実も全て語っていた


「結果、横島君と彼女に犠牲の全てを押し付けて世界は生き残った。 誰に横島君を責める資格がある? 本来責められるべきは我々大人だ!!」

拳を握り締め自分に対する怒りが収まらない様子の唐巣

そしてかおりと魔理の二人は、放心状態で無意識に涙を流していた


「あの戦いの後、横島の精神はボロボロだった。 ルシオラを犠牲にして勝手にハッピーエンドだと決め付けた美神令子や、ルシオラを無かったように振る舞うおキヌに失望した横島は一人殻に閉じこもった」

唐巣の話を引き継ぐように雪之丞はアシュタロス戦後を話し始めた


「そんなボロボロな横島を救ったのが魔鈴さんなんだよ。 あの人は横島とルシオラを全て含めて受け止め支えた。 そして横島もそれに答えるように生きる気力を取り戻した。 そして新しい仲間を見つけた横島は、仲間とルシオラの為に美神事務所を辞めた。 それが今だよ」


雪之丞の言葉が終わると部屋は沈黙に包まれる

そして詳しい事情の知らなかったタイガーは我慢出来なくなったのか、大声をあげて泣いている

静かな部屋にタイガーの泣き声が響く中、唐巣はゆっくりと二人を見た


「君達が今日知った真実をどう解釈するかは君達次第だ。 ただ、この事はだれにも言わないで欲しい。 真実が明らかになっても誰も幸せにはならない。 神に仕える身としては不謹慎な言葉かもしれないが、真実が必ずしも幸せに繋がるとは限らないのだよ」

唐巣はそう話すと静かに部屋を後にする

残った四人で口を開く者は居なく、あまりに衝撃的な真実にかおりと魔理は頭が整理出来なかった



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