ゆく年くる年

さて十二月に入った六道女学院霊能科では、ちょっとした騒ぎが起きていた

騒ぎの原因はやはり一文字魔理であり、彼女が誰よりも早く学校に来て早朝の修行に参加するようになったことがちょっとした噂になっていたのだ

GS専攻組である魔理だが、元々対人戦の実力はともかく総合的には落ちこぼれだと見られていた

そんな魔理が反抗的な態度をガラリと変えて、修行やGSの勉強に打ち込めば嫌でも噂になる

おキヌやかおりなど数少ない友人はどうしたのかと理由を尋ねたりはしたが、魔理はこのままじゃGSになれないからだとしか言わない

まあおキヌに魔鈴の話を出来ないので説明のしようがないのだが、魔理が唐巣や令子の除霊の見学をしたのを知ってるおキヌやかおりは令子や唐巣が魔理のやる気に影響したのだろうと考えてるようだ


そんな魔理の日常が厳しいのはもちろんだが、やはり時間との戦いであった

鬼道は魔理に対し人一倍厳しい修行と勉強のノルマを与えており、魔理は授業の合間の休み時間でさえ霊能の教科書を開いている

僅か三ヶ月足らずでGSの基礎を固めるのは簡単ではなく、やる気が見られなくなれば教えないとの態度で厳しく指導していたのだ

ただ厳しいと言ってもそれは精神的なモノであり、肉体的にはさほど厳しい修行ではない

朝晩の修行も霊力を扱う基礎からやっており、今のところ魔理が考えていたような戦闘の修行など全くないのだ

それは魔理が今まで苦手だと言って手を逃げていたことであり、魔理の精神的な疲労は凄まじいモノだった

加えて慣れない頭を使って霊能の勉強をするものだから、正直成果は芳しくない


「一文字さん大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ではないのでしょうが、やらなくてはGSにはなれないと思いますわ。 普通はGSになるには幼い頃より修行して学びますし、遅くても皆さんのように高校三年で学ぶものです。 一文字さんは苦手なことを放置したままでしたから……」

毎日顔色が悪くなるほどの様子で日中は会話もなく勉強する魔理に、おキヌは心配そうだがかおりはやらなければ未来はないと言い切る

おキヌのおかげで友人となったかおりと魔理だが、かおりは以前からずっと魔理に勉強不足や修行不足を指摘して来たのだ

彼女からすると魔理が本気になるのが遅すぎたとの印象なのだろう

喧嘩の経験から対人戦だけが得意でもGSにはなれないのは、かおりのみならずちょっとオカルトを学んだ者ならばみんな感じることなのだ

卒業まで三ヶ月のこの時期に修行や勉強を焦ったように始める魔理を影で笑ってるクラスメートは少なくない

GS専攻クラスの者達は大半が高校入学前から修行や勉強をしてるし、高校に入ってから学んだ者も人一倍努力した者がほとんどなのだ

今更遅いというのがほとんどの者の見方だった

そんなクラスメート達には散々な評価の魔理だが、実は教師陣の評価はそこまで酷くない

時期は確かに遅く三ヶ月で三年を取り戻すのは無理だが、年齢から考えるとまだやれると見てる教師も少なくないのだ

三ヶ月で基礎を固めいい師匠を見つければ可能性はあると見てるからこそ、鬼道を始めとした教師陣は厳しくも指導していたのである

その可能性は決して大きくない僅かな可能性だが、それでも魔理は時間を惜しむように日々を積み重ねていた



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