十二月に入ると街はクリスマス一色に染まり、店がある商店街でもクリスマスのイルミネーションが目立ち年末恒例の福引きも始まる

年末年始は商店街にとっても書き入れ時で、それぞれの店が趣向を凝らしながら営業に力を入れていた


「魔鈴君は居ますか？」

そんなこの日の午後、一人の老婦人が魔鈴を尋ねて店を訪れる

正直あまり金持ちそうには見えないが、品格というか気品があるような女性だった

対応したシロはすぐに魔鈴を呼びに行ったのだが……


「あら院長先生！　ご無沙汰してます」

尋ねてきた老婦人はかつて魔鈴が育った孤児院の院長先生であった

年に数回だが今だに店に顔を出して魔鈴の様子を見に来ている人物である


「院長先生でござるか？」

「私が高校卒業までお世話になっていた孤児院の先生なの」

院長先生という呼び方から医者かと勘違いしそうなシロに魔鈴は事情を話し、院長先生にも横島やシロやタマモを紹介していく

横島達は魔鈴が孤児院にいた話はお盆の時に聞いていたため特別驚きはなかったが、久しぶりに来たら人が増えてることに院長先生の方は驚きを隠せない

前回来たのが二月上旬だったことから少し月日が空いているが、まさか数ヶ月で三人も人が増えてることは素直に驚いている


「そうですか。　魔鈴君にもようやくいい人が出来たんですね。　あまりにそちらの気配がないのでそろそろお見合いでもと思っていたんですよ」

数ヶ月ぶりの再会で恋人が出来て賑やかに暮らしてる魔鈴に院長先生は本当に嬉しそうに微笑みつつ、ちょっとした爆弾を落としてしまう


「えっ！？」

その瞬間お茶を飲んでいた横島はお茶を噴き出しそうになり、そんな横島を見て院長先生は楽しそうに笑っている

本人は冗談半分だったのだろうが、自分に自信のカケラもない横島は正直あまり笑えない冗談だった

笑っている院長先生の姿に横島はなんとかからかわれたと気付くが、渇いたような苦笑いしか出てない


「それで院長先生、今日はお食事ですか？」

「そうね。　それもあるけどお願いもあって来たの。　年末年始のどこかで、みんなにお食事を作って貰えないかしら？　実は同じ孤児院の出身の貴女の店の評判を聞いた子が居てね。　一度でいいから食べたいって言うの」

そのまましばらくお茶を飲みながら近況を話す魔鈴と院長先生だったが、魔鈴が今日の予定を尋ねると院長先生は魔鈴に料理の依頼を頼む

院長先生が経営する孤児院は神奈川県なのだが、孤児院出身者の魔鈴の店の評判を何処かで聞いた者が居るらしい


「そんなことでしたらいつでも構いませんよ。　流石にイブの夜は無理ですけど……」

「それはよかったわ。　みんな頼む前から、もう楽しみにしちゃってるの」

孤児院出身者の出世頭ともいえる魔鈴の存在は、孤児院ではそこそこ有名なようである

正直さほど余裕がある孤児院ではないので、なかなか本格的なレストランに行く機会などない

そんな子供達が魔法料理という珍しい料理に大きな期待を抱くのは当然のことだろう

結局魔鈴はクリスマスの少し前に孤児院に料理を作りに行くことを引き受けていた