ゆく年くる年

さてそんな買い物も一段落すると、横島と魔鈴は近場のファーストフードで休憩していた


「久しぶりに来たな~ 前はこの系列で一番安いハンバーガーをよく食べてたんっすよ」

一個百円のハンバーガーがあるこのファーストフードは、以前の横島の御用達の店の一つだったらしい

百円で肉とパンが食べれる貴重な場所だったようだ


「放課後の学生が来るにはいい店ですからね」

「いや……、主食にしてたんです」

何気ない横島の言葉に魔鈴は自身の学生時代を思い出し放課後のおやつ程度の感覚だったが、横島にとってはしっかりとした主食だった

どうやら袋ラーメンと同じく主食の一つとしてハンバーガーを食べてたらしい


「……本当によく身体を壊しませんでしたね」

夕食にハンバーガー一個だけだった時も多かったと聞いた魔鈴は思わず言葉に詰まってしまう

加えてアシュタロス戦より前はピートへの差し入れの弁当を強引に貰って食べたり、美神事務所で食べさせてもらって食い繋いでいたと聞くとため息しかでない

横島は半ば笑い話として話してるが、魔鈴は苦笑い以上出なかった


(ひょっとしてわざと……)

今が幸せだから笑って言えると話す横島だったが、魔鈴はそれもまた横島を縛る鎖の一つだったのではと考える

端から冷静に考えると美神事務所で食べてた横島の食費は当然令子持ちなのだから、普通に考えるのならばそれを時給に上乗せなり手当てとして付けるべきなのだ

当時の横島の食費がどの程度かかってたかも知らないし一概には言えないが、意識的にしろ無意識にしろ横島を手元に置きたいという強い意識があったとしか思えない


(そもそも嫌いな相手と一緒に食事はしたくないものですし……)

横島は相変わらずその辺りの令子の気持ちには全く気付いてないし考えてもないようだが、そもそもあのワガママな令子が嫌いな相手と食事はしないだろう

それが令子とおキヌどちらの考えや気持ちかは魔鈴には分からないが、彼女達にとって食事は横島を手元に留める手段の一つだった可能性が高い


「もっと早く相談してくれたらよかったんですけどね」

「いや~、流石にそんなことは言えなかったですよ。 魔鈴さんに嫌われたくなかったですし」

正直もう少し早く相談して欲しかったとこぼす魔鈴に、横島は男としてのプライドからか嫌われたくなかったと言う

だが魔鈴としてはそんな横島の感覚がイマイチ理解出来なかった

女性にモテたいと願う横島がモテる為にと考える行動をしなかったし、逆に何故あれほど欲求をむきだしにしたかも理解出来ない

そんな横島を本能の赴くままに生きていたと決め付けるのは簡単だが、何故そうしたのかを考えるのは必要だと思う

元々研究者である魔鈴はそんな【横島だから】と言われるようになる根源が気になってしまうのだ

結局二人はしばらくそんな何気ない会話を続けていく


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