ゆく年くる年

さてきのこ尽くしの夕食を堪能しつつ説明する魔鈴だが、晩秋の季節限定メニューに人狼の里の天然のきのこを使いたいらしい

天然物のきのこは魔法料理との相性もよく、秋に相応しい目玉メニューになるようだ


「店で扱う量は限られてますし、人狼族の負担にはならないと思うんです」

今年に入ってからの人狼族との交流で人狼達の生活環境なども魔鈴は理解してるし、きのこの一部を魔鈴が買い取ることで魔鈴は天然のきのこを安定的に手に入るし人狼族は貴重な現金収入にもなる

結果的に両者に利益があった


「里では肉やドッグフードの方が貴重なんでござるよ」

魔鈴は天然物の美味しいきのこに大いに喜んでいるが、人狼達にとっては肉やドッグフードの方が貴重らしくシロは若干不思議そうである

ほっといても生えて来るきのこなどと違い、数が限られてる肉やドッグフードの方が貴重らしい


「まあ確かにドッグフードも高いやつは結構するけどさ」

「環境の違いね。 山にない物が人狼にとっては貴重なのよ」

別にシロもきのこが嫌いな訳ではないのだろうが、魔鈴との喜びの温度差は激しかった

それと言うのもきのこの中にはなかなか手に入らない本しめじや松茸など、貴重なきのこも僅かだが混じっている

その他にもあまり市場に出ないきのこも多く、どれも美味しいきのこばかりだった

その価値を知る魔鈴としては当然喜びは大きくなるが、シロにとっては所詮山にある物なのだ

横島とタマモは二人の対照的な様子を見て、生まれ育ちによる価値観の違いを改めて実感していた



そんな訳で魔鈴は数日後には人狼族と交渉することになるが、きのこの購入はあっさりと決まることになる

人狼族にとっては人狼の里の場所が注目されるような事態は困るが、現状でも里の場所を知る魔鈴が自分の店で使う分くらいならば問題なくきのこも用意することも簡単だった

というか魔鈴の購入金額の高さに人狼族が驚くが、これはシロと同様に人狼族にとって天然物のきのこは珍しい物ではないからだろう

そして今回のきのこの購入計画に関しての唯一の問題であるきのこの輸送手段だったが、こちらは一週間に一回の割合で人狼の若者が麓の村まで運び宅配便で送ることになる

魔鈴もいろいろ検討はしたが、結局はそれが一番早くて安全だったのだ

何はともあれ魔法料理魔鈴では、残り少ない秋の味覚として天然のきのこが存分に振る舞われることになった

日本の山間部などでは現在でも天然のきのこが食べられることも多いが、東京の料理店で出すと安くはない

しかし魔鈴の店では人狼族の協力により比較的安く提供出来ることになる

値段に関しては最終的には魔鈴の提案した卸値価格よりも幾分下がったが、それはきのこ採りの苦労が人狼にはないことが大きな理由だった

人狼達が散歩のついでに集めたきのこなだけに、魔鈴も人狼も双方得する値段で落ち着くのである

ちなみに余談ではあるが、今回を境に春の山菜などもよかったら店に出してみたいと魔鈴は考えており、人狼族と横島達の交流はこれからも深まることになる

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