ゆく年くる年

「やっぱ妖怪が街で生きるのは大変なんだろうな」

愛子の決断を聞いた横島は驚きつつも肯定的に受け止めていたが、決断には相当の苦悩があったと感じ複雑な想いも抱えていた

横島もまたずっと考えていた愛子が学校を出ることだが、理想と現実の違いというか現実の難しさを時間が過ぎれば過ぎるほど感じるのだ

あの後には中途半端なことを言ったかと若干後悔もしている

今回愛子にはエミが声をかけたからよかったが、そうでもない限りは愛子が街に出るには横島や魔鈴の全面的な協力が無ければ不可能であろう

しかし自身ですら魔鈴に世話になってる横島としては、仮にエミの誘いがなかった場合には愛子が自立する協力を出来たかと言われると疑問が残る

自分の無力さと安易な考えに苛立ちも感じていた


「簡単ではないですよ。 しかし学校に居ても未来があるのかもまた微妙なんです」

愛子の決断を喜びつつも自身の言動の意味とそれを実行する力に疑問を感じる横島に気付いた魔鈴は、冷静に愛子の現状を語っていく

実は魔鈴自身は誰にも口外してないが、愛子を雇うことも含めて密かに検討していた

具体的には魔鈴と雪之丞が除霊活動をする上での事務員として愛子を雇うことを考えていたようだ

今後雪之丞は除霊の仕事を増やすだろうし、その際に増える関連する事務仕事をする事務員が欲しいとも考えていたのである

雪之丞自身も以前に比べると成長して最低限の報告書くらいは書けるようになったが、それでも事務能力の低さは否めない

加えて雪之丞自身が独立に消極的なことから、魔鈴はこのまま雪之丞を雇う形での将来も真剣に考えていたのだった


そもそも横島の理想や考えには具体的な問題点が多いのを熟知している魔鈴は、横島が語ったことをサポートすべく考え行動している

今回はエミの行動により魔鈴の出番はなく様子を見る形だったが、場合によっては愛子を誘うつもりだったらしい


「どの道人間社会で生まれた九十九神である彼女は、人間と共存しなければなりません。 将来を考えると一度は学校を出て生きた経験は無駄にはなりませんよ」

若干苦悩する横島に魔鈴は、そんな自身が愛子を雇うことを考えていたなど告げずに現実的な話に終始する

魔鈴自身も横島の考えが間違ってるとは思ってないし、愛子が学校を出て生きるのはいい経験になると考えていたようだ


「いや、軽はずみなことを言ったかなって思って……」

「悩んだり迷ったらいつでも話して下さい。 私もタマモちゃんもシロちゃんも一緒に考えるくらいは出来ますよ」

この時横島は何故かタマモと出会った時を思い出している

自分の想いと結果が違ったあの件は、時間が過ぎれば過ぎるほど複雑な心境になるのだ

そんな横島に魔鈴は考えの良し悪しを告げずに相談してほしいと告げる

以前に比べれば大分話すようになった横島だったが、基本的に一人で悩む癖が魔鈴は気になるようだった

意外とナイーブな一面がある横島なだけに、魔鈴はもう少し話して欲しいとの想いが強かったようである


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