ゆく年くる年

「ねえ、どう思う?」

人狼族の冬支度も無事終わった魔鈴宅では、横島・魔鈴・雪之丞が除霊の仕事に向かった後に愛子が訪ねて来ていた

この日は勉強を教える日ではなかったが、タマモとシロに相談したくて来たらしい


「私はいいと思うわ。 少なくとも知らない学校に行くよりは安全よ」

「拙者も同感でござる!」

愛子の相談とは卒業後のことだった

今のところ学校の先生達は優しいし来年も居ることが出来そうなのだが、校長が変わらなければとの条件もある

夏にエミに誘われ以来、愛子はずっと悩んでいたのだ

元々学校の妖怪の愛子は、学校を離れて人間社会で生きていく自信がないのも悩む原因だった

タマモとシロはそんな愛子にエミの事務所に行くように勧める


「GS事務所が怖いなら魔鈴さん達に相談する? 雪之丞の家庭教師もアリだと思うわよ」

それでも悩む愛子にタマモは魔鈴の家に住み雪之丞の家庭教師をするのも多分横島達は受け入れるだろうと言うが、愛子の表情から迷いは消えない


「私……怖いの。 ずっと学校から離れたことがないから……」

それは当然の感情でありタマモは愛子の気持ちが痛いほどよくわかった

横島がどこまで考えてたかはタマモも愛子も知らないが、妖怪が天敵とも言える人間の社会で暮らすには想像を絶するほど難しいことなのだ

いつ何が起きても誰も助けてはくれないし、何をされても問題にすらならない

タマモやシロは横島や魔鈴に守られてるから安全に暮らせてるが、それは並の妖怪からすれば幸運どころの話ではなかった


「はっきり言うと、今はこの街を離れない方が安全よ。 この街なら貴女を助けてくれる人が多いもの。 遠い未来は分からないけど、少なくとも今はここより平和な場所はないと思った方がいいわよ」

愛子の気持ちを痛いほど理解するタマモだが、だからこそ今しか愛子が学校を出るチャンスがないのも理解している

横島や魔鈴は元よりエミや唐巣など理解ある者が存在するうちに人間社会に出なければ、愛子は一生学校から出られないとも思うのだ


「何かあれば拙者がすぐに駆け付ける故に心配無用でござるよ」

タマモの言葉を静かに聞く愛子に、シロは自分に任せろと言わんばかりに自信に満ちた笑顔を見せる

それは無邪気さと覚悟の入り混じった不思議な笑顔だった

若さ故の無邪気さはあるが、同時に仲間に関しては誰より熱く守るとの強い覚悟がシロには存在する

仮に愛子に何かあればシロは本当に駆け付けるのは愛子自身も強く感じた


「……二人ともありがとう……」

終始冷静なタマモと熱く強いシロの二人に、愛子は何故か横島の姿がダブって見えてしまう

二人と横島が似てるとも思えないが、それでも姿がダブって見えるのだから愛子も不思議だった


(貴女達も苦しむ横島君を守ってたのね……)

この時愛子はかつて魔鈴が支えるまで横島の精神を守り支えていたのは、二人なのだろうと改めて実感する

そして横島に少なからず影響を与え、逆に横島の影響も二人は受けているのだとシミジミと実感してしまう


「私、ようやく決意出来たかもしれない」

対照的な二人の友人に、愛子は自身の中にあった未知への恐怖が薄れていくのを感じる

そうするとチャンスは今しかないと愛子自身思えて来るのだから不思議だった



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