ゆく年くる年

さて秋も深まったこの頃、魔鈴宅には大量のダンボールが山積みになっていた

ダンボールの中身は調味料や保存の出来る食料などである


「しかし人狼の里の冬支度は凄まじいな」

家の中を占拠する大量のダンボールに横島は引き攣った表情を見せつつも協力して数の確認などをしていく


「お世話になってすみません。 昔と違い山の恵みだけでは生きては行けないのです」

ダンボールの確認や仕分けを手伝う横島やタマモに深々と頭を下げたのは、完成に尻尾を隠した人狼の里の若者だった

実は横島達は人狼の里の冬支度の手伝いを頼まれていたのである

例年は人狼の村の者が何人かで買い物に行くのだが、不慣れな人間の街で騙されたり間違うことも少なくなかった

その結果今年は横島達が何度か人狼の里に行ってることから、横島達に代わりの買い出しを頼んでいたのだ


「気にしないで下さい。 この手の仕入れは商売上慣れてますから」

申し訳なさそうな人狼に、魔鈴は気にしないでいいと告げると更に必要な発注を確認していく

実は人狼から頼まれた大量の食料などを、魔鈴は店の出入りの業者に頼んで仕入れていたのだ

普通に買うよりはかなりお得な卸値で仕入れが可能だったのである


「あんな山奥ですら食料が足らんとはな……」

「里の周辺には人間は滅多に来ませんが、そんな人間が来ない山は多くありません。 少ない自然と共存するには人間の街から手に入れるしか方法がないのです」

自給自足の生活をしてる人狼の里でさえ、冬場は食料が足りないと聞くと横島も魔鈴も複雑な心境になる

あまり大きくはないが畑で農耕をしていることも驚きだったが、生きる為には妥協や変革は必要なのだろう

目の前の人狼の若者は横島や魔鈴を責めはしないが、人間と人狼の対立が根底にあり根深い問題なのだと二人は痛感させられることだった


「流石に量が多いですから、何回かに分けて送る必要がありますね」

人狼の里の生活ぶりや冬季間の暮らしを聞きかながら作業する横島達だが、ダンボールの一部はすでに表にある大きな魔法陣の中心に積まれている

これだけ大量の荷物を人狼の里まで運ぶのが大変なので、魔鈴は魔法を使って運ぶつもりだった

これは以前に人狼の里に土産として大量のドッグフードを持って行った時と同じ魔法で、魔法陣から魔法陣へ物を召喚する魔法である

一応横島の文珠による輸送も考えたのだが、横島には量が多い荷物を抱えての転移の経験がないことから、一度横島と魔鈴が人狼の里へ行き魔法陣を作成して魔鈴の魔法で輸送することにしたらしい


「便利な魔法だな。 人間も行けるんじゃないか?」

「十分行けますよ。 ただ簡単な魔法ではありませんから、私以外は使いこなせないと思います。 元々召喚や空間系の魔法は非常に難しいんです。 横島さんの文珠は別格ですから」

荷物を魔法で送る魔鈴の姿に手伝っている雪之丞は本当に便利だと感心するが、それは魔法全般に言えることで魔鈴を見てれば割と簡単そうに見える

しかし実際には魔法のコントロールには感覚的に頼る部分があり、魔鈴は天才的なセンスで簡単に見えるが普通はそうはいかない

そもそもそれほど魔法が簡単ならば、中世で失われなかっただろう


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