秋の夜長に……

同じ十月下旬、大樹と百合子は昔馴染みと食事をしていた

和やかな昔話などから始まり様々な話をしていくが、中盤に差し掛かる頃になると空気が微妙に重くなる


「来春ザンス国王が来日するのは知ってるか?」

昔馴染みの中年男性は与党の中堅議員だった

次期総理とも噂が出る人物で、政府内でも扱いに困っていたタマモの件を百合子の頼みにより処理した人物である


ここで少しタマモの件の裏側を説明すると、金毛白面九尾復活の知らせに退治に傾いた政府だったがそれが一枚岩でないことは確かだった

中には保護してある程度の飴を与えれば日本に協力するのではとの打算を含めた意見もあったのだ

この時は最終的には討伐に傾いた政府だが、その後金毛白面九尾を助けたのが令子と横島だった点が問題を複雑化していた

アシュタロス戦により政府が人外に対して神経質になってはいたが、それでも日本最強と言われる美神令子とアシュタロス討伐の影の立役者の横島忠夫の存在は軽くは無い

危険かどうか分からぬ金毛白面九尾の件で二人の経歴に傷を付けて喜ぶのは魔族と日本の周辺国だけなのだ

結局政府は金毛白面九尾を退治したとの偽の報告のままに、助けられた事実を見逃して終わってしまう

中には慎重論もあり一定の監視は付けられはしたが、結局タマモは何もせずに普通に暮らす結果から扱いに困っていたのが当時の現状だった

結果的に百合子の暗躍により横島が責任を持つ形で政府はタマモの件から完全に手を引いたが、その時に動いたのが今日会ってる人物である


「ザンス王国って言えば精霊石か……」

昔馴染みの話に大樹は微妙な表情でつぶやき、百合子は少し険しい表情になる

二人はすでに話の本題を理解しており、対応に悩んでしまう


「忠夫君に首相主宰のパーティー参加して貰えないか? 日本人で四人しか居ないザンス勲章を受けた者を欠かす訳にはいかないんだ」

この日の本題はザンス国王来日の際の横島の協力の是非だった

横島本人はすっかり忘れてるかもしれないザンス勲章だが、本人が考えてる以上に重いモノである

まあ政府としては別に横島に何かさせようと考えてる訳ではなく来てくれるだけでいいのだが、現在の横島はフリーの民間人なのに小竜姫の庇護により六道やGS協会は横島に協力要請すら出来ないとする態度を貫いたことから面倒になっていた

小竜姫と日本政府に直接的な関わりはないが、アシュタロス戦の真実を知り神族が庇護する横島に政府は直接交渉するよりは、両親のツテで事前に交渉しようと考えたらしい


「最悪は名前だけを貸して貰って風邪で欠席にしてもいいのだが……」

正直神族と関わりがある横島にはあまり関わりたくないのが政府の本音なのだろうが、外交儀礼上で横島を外すことは難しかった

とりあえず名簿には名前を載せておけば、当日は仮病で来なくていいとの本音もあるようだが……


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