秋の夜長に……

それから数日後、閉店後の魔法料理魔鈴では横島達によりハロウィンの飾り付けが行われていた

助っ人として愛子と小鳩が呼ばれ、インテリアなどは彼女達の意見を参考に飾り付けが進められていく

横島も魔鈴もインテリアには全く自信が無かった為、急遽愛子達に頼んでいたのである

横島達の中ではタマモが一番まともな感性の持ち主だが、タマモ自身も正直人間の趣味は分からないと言い切るので愛子達に白羽の矢が当たったらしい


「子供向けのイベントするなんて横島君も考えたわね」

「魔鈴さんも別に高級感を売りにするつもりはないみたいだしな。 家族連れで楽しく食事できる店にしたいだろ」

横島の注文は子供向けのインテリアであった

基本的に魔法料理魔鈴は大人向けの雰囲気の店だが、横島は今回子供連れが気軽に入れる店にしたいらしい


「個人経営の店ってどうしても入りにくい空気があるからな。 ファミレスとか牛丼屋みたいに気軽に入れる工夫は必要だろ」

現時点でも魔法料理魔鈴は決して赤字でもなければ客の入りが悪い訳でもない

時間帯によっては客席が満席になることもあり、テコ入れが必要なほど困ってる訳ではないが横島は新たな客層の獲得を目指していた

今回のターゲットは子供と子供が居る主婦層である

魔鈴の店も開店して二年目が過ぎ安定的な客は出来ているが、現状が永遠に続くほど飲食業は甘くは無かった


「十分お客さん入ってると思うけどね~」

「平日の午後とかは結構暇だからな。 子供が居る主婦とかなら平日の午後に来るかなってさ」

横島の話を興味深げな様子で聞いていた愛子にはやはり現状でも十分繁盛してるように見えるらしいが、昼のランチタイムの時間外は結構暇だったのだ

横島の狙いはその時間帯だったようである


「しっかり考えてるのね~」

「当たり前だろ。 いつまでも魔鈴さんに頼りっぱなしでいる訳にはいかんからな」

高校時代を思い出す愛子は、しっかりと店のことを考えてる横島に少し複雑な思いが過ぎってしまう

高校時代にイメージが先行する形でダメ人間として扱われていた横島は、最後まで落ちこぼれのままだった

最も横島自身が学校にあまり興味がなくクラスメートにどう見られても気にもしなかったことが原因なのだが、もう少し上手くやれば学校生活を楽しめたのにと思うと愛子は残念な気持ちが残ってしまうのだ


(やっぱり分かりやすい性格なのよね)

横島が店をしっかり考えてる原因は、横島を信頼して任せてる魔鈴にあると愛子は気付いている

この件に関しても魔鈴は基本的には横島に任せており、横島が自主的に考えた方針がほぼそのまま採用されているのだ

信頼が何より横島を成長させてる事実に、愛子はかつての自分が足りなかったモノに気付いてしまい後悔が残る


結局横島は分かりやすく信頼すれば答えるような単純な性格でもあるのだ

きっと分かってくれるだろうという、あまのじゃく的な態度は逆効果でしかない

令子やおキヌのみならず、かつてのクラスメートにも横島はきっと分かってくれてると信じてあえてノリで冷たく接していた者も少なく無かったのだが結果は……

愛子は改めて人間関係の難しさを痛感するひと時であった


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