秋の夜長に……

一方小竜姫達と別れ帰宅した横島は魔鈴宅がある異界の夜空を見上げていた

綺麗な星空もなく異界独特の夜空なのだが、そんな夜空だからこそ横島は言葉に出来ない希望を持ってしまう

この異界が元々何なのかは横島も魔鈴も知らない

ただ中世の魔女が使用していた異界を出入りする魔法を、魔鈴が蘇らせただけなのである

誰かが造ったのか発見したのかすら知らないこの異界は、横島にとって未知への一つの希望となっていた

きっとこの異界のように、誰も知らない未来が存在するはずだと

そして……、ルシオラを救う道も必ずあると信じさせるだけの可能性をこの異界に感じてしまう


「魔鈴さん、焦らないでいいっすから。 無理はしないで下さい」

しばらく無言のまま外を眺めていた横島は、タマモとシロがお風呂に入ってる合間に本を読む魔鈴に静かに語りかける

確かにルシオラの復活は何としても成し遂げなければならないが、変わりに魔鈴の人生が犠牲になるのもやはり横島は嫌だった


「私は無理などしてませんよ。 以前と比べれば今は楽になった方です。 女が一人で生きて行くのは大変ですから」

少しの時間も惜しんで努力する魔鈴を横島は心配になるが、意外なことに魔鈴の生活は横島達が来て以来楽になっている

元々店の営業にGSの活動に魔法の研究に私生活を、基本的に全て一人で行っていた魔鈴の生活は相当大変だったのだ

まあよくしゃべる黒猫もおり孤独だった訳ではないのだろうが、かつての魔鈴の生活がキツかったことには変わりない

それに比べると忙しいとは言っても現状の魔鈴はまだ余裕があるらしい

まあ端から見てると十分働き過ぎなのだが、その辺りは本人の自覚がないようだ


「そうなんっすか? とても楽には見えないですけど」

「私は充実した日々を送ってるつもりですよ。 多少焦りもないとは言えませんが、無理をしてるつもりはないですしね」

この辺りは横島と魔鈴の価値観が違うところだろう

基本的に根が真面目な魔鈴は、コツコツと日々の積み重ねを当然のように行っている

確かに焦りもあり頑張ろうと努力はするが、魔鈴の感覚では無理はしてない

実際魔鈴は体調には気をつけており、身体を壊すようなことはしなかった

ただ横島から見た魔鈴は明らかに働き過ぎであり、どうしても心配になってしまう

まあ元々横島はそれほど根が真面目ではないので、根本的な価値観や感覚の違いはどうしようもないのかもしれないが


「魔法もまた一つ一つの積み重ねが重要なのですよ。 私がしている先人の積み重ねを探して蘇らせるのは裏技のようなモノですしね。 私はまだまだ学ばねばならないことが多いんです」

期待と不安が入り混じった表情の横島はそんな魔鈴の言葉に返す言葉が浮かばなく、深く頭を下げるしか出来なかった

そしてそんな魔鈴の存在が横島をどれだけ成長させているか、計り知れないモノがある

人は親の背中を見て育つとも言うが、横島が霊能者として目指すべき姿は間違いなく魔鈴だった

しかし一歩一歩進む二人の真価が本格的に発揮されるのはまだまだ先のことである



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