秋の夜長に……

その後、居酒屋で酒と食事を楽しんだ後に横島達と小竜姫達は別れてそれぞれに帰っていく

すっかり時間も遅くなり終電ぎりぎりになったのは、神魔が人間と違いほとんど酒に酔わない為だろう

居酒屋の店主が途中で酒を買いに走ったり、会計の時にあまりの金額に不思議そうに横島達を見ていたことからもどれだけ飲んだか分かる結果である

まさか相手が神魔族だとは思いもしないようであった

ちなみに今日の支払いはワルキューレだったことも付け加えておくべきだろう

支払いはカードであり人間界での偽名である春桐魔奈美だった

横島も魔鈴も深くは聞かないが、案外人界に来てることもあるのかもしれない



「あんた達は少し遠慮するワケ」

同じ頃、都内のとある繁華街ではエミがピート・雪之丞・タイガーの三名を連れて飲みに来ていた

相変わらず雪之丞とタイガーには冷たいエミだが、言葉の割には邪険には扱ってなく態度は昔に比べると柔らかい


「細かいことはいいじゃねえか」

いつもと同じくピートにアプローチするエミを雪之丞は気にする様子もなく、料理や酒を好きに頼んでいる

実際エミは呆れた表情にはなるものの止めるつもりはないらしい

そんな四人も深夜になり流石にそろそろ帰ろうと店を出るが、エミ達は途中で予期せぬ相手と出会ってしまう


「お久しぶりです」

お互い相手に気付いた瞬間、微妙な空気が辺りを支配する

なんとエミ達が出会ったのは美智恵だったのだ

先程までの雰囲気がガラリと変わり緊張感漂う中、ピートは自分から美智恵に挨拶していた

エミと美智恵の関係はあまり知らないが、雪之丞と美智恵の関係がよくないのは知っている

万が一にも妙な展開にならないように、ピートは自分が挨拶してさっさと離れようと考えたらしい


「頑張ってるみたいね。 私としては複雑だけど、貴方はこれでよかったのかも知れないわね」

エミ達とばったり会った美智恵だが、言葉を交わしたのは挨拶して来たピートとだけであった

まあエミとタイガーは儀礼的に軽く会釈したので美智恵も同じく軽く会釈したが、雪之丞に至っては互いに無視したままである

特に険悪にならなかったことにピートはホッとするが、美智恵が離れて真っ先に口を開いたのは意外なことにエミだった


「あんたの態度良くないわよ。 好き嫌いは別にして敵意を見せるのは止めた方がいいワケ」

先程まで飲んでた時と違い真剣な表情のエミは、雪之丞が美智恵に敵意を見せていたことを注意し始める


「別に仲良くしろとも作り笑顔をしろとも言わないけど、むやみに敵意を顔に出すのはやめなさい。 あの相手には付け込まれるだけよ」

言いたいことを言うとそれ以上何も語ることはなく、再びピートにひっつくエミだが雪之丞は多少驚きながらも苦笑いを浮かべてしまう

雪之丞自身敵意を見せたつもりはないが、多少意識したのは確かだった

実際警戒してしまったし、それが他人には敵意に見えたのはある意味当然だろう

現状で雪之丞が美智恵に敵意を見せるねは必ずしも得策ではなく、エミの忠告が最も過ぎて雪之丞は返す言葉がなかった



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