秋の夜長に……

その後店の営業が終わった横島達は、後片付けを済ませるとそのまま出掛けて行く

帰宅時間のピークはとっくに過ぎてはいるがそれでも結構多い、帰宅するサラリーマンやOLなどに混じって電車で向かったのはやはり東京タワーだった

若干人目を気にしつつ特別展望台の上まで魔法のほうきで上がって行った横島達が見たのは、風に吹かれる花束である


「誰だ? ベスパか?」

「この匂いは……冥子さんね」

久しぶりに訪れたこの場所にまだ新しい花束があることに横島は素直に驚くが、タマモとシロが匂いから相手を特定すると思わず笑ってしまう


「冥子ちゃんか…… らしいな」

きっと深く考えてないと理解してるが、それでもこの日にルシオラのことを思い出しここまで来てくれたことに、横島は嬉しい気持ちでいっぱいだった


「愛子殿や小鳩殿の匂いも下にあったでござるよ」

「そっか……」

途中で買ってきた花束を冥子の残した花束の隣に置いた横島は、しばし無言になり東京の街を見つめ続ける

ここから見る景色はあの日とほとんど変わらない

ただあの日あった巨大なアレが無くなったこと以外は……

何かを語る訳でも思い出す訳でもなく、ただ横島は静かに街を見つめるだけだった


(横島さん……)

一方魔鈴達もまた何も語ることもなく横島同様に東京の街を眺めていた

直接知らぬ魔鈴達にとって横島やベスパ達を通して知るしかないルシオラを、この場所なら僅かに感じることが出来る気がするのだ


「横島……」

「先生、誰か居るでござる」

それからどれだけ時間が過ぎたか分からないが、ずっと無言だったタマモとシロが突然立ち上がり辺りを警戒し始める

普通だと有り得ないほど隠匿された気配を二人はほんの僅かに感じたらしい


「のぞき見はダメっすよ、小竜姫様。 それにベスパやパピリオも居るだろ」

タマモとシロが警戒したことで魔鈴の表情にも緊張感が走り警戒するが、横島は何故かクスクスと笑って小竜姫達の名前を口にする


「よく分かりましたね、横島さん。」

魔鈴達が横島の言葉に驚く中現れたのは小竜姫達であり、具体的には小竜姫にヒャクメ・ワルキューレ・ジーク・ベスパ・パピリオであった

すぐ近くに彼らが居たことに魔鈴達は驚きを隠せないが、横島は全く気にしてない


「なんとなく勘っすよ。 のぞきは散々しましたからね」

「私達は別にのぞきをしていた訳ではありませんよ」

小竜姫達の行動をのぞきと一緒にする横島に小竜姫は苦笑いを隠せないが、横島も小竜姫もいつもと同じく緊張感のカケラもなかった


「しかし、軍の上級結界が人間界で見破られるとは思わなかったな」

「彼女達は潜在能力が別格ですからね」

一方ワルキューレとジークは、タマモとシロに気付かれたことに素直に驚いている

そもそも彼らが使っていた結界は対神族用の上級結界なのだ

彼らはお忍びで人間界に来たことから他の神族に見つからぬように使用したのだが、流石にタマモ達にでさえ見つかるとは思ってなかったらしい



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