秋の夜長に……

日が暮れると魔法料理魔鈴は夕食を食べに来る客で賑わっていた

シロと黒猫が忙しそうに料理を運ぶ店内は、堅苦しい雰囲気ではなく割と和やかな雰囲気である

客のほとんどは夕食を食べに来ているが、中には軽く飲み来る客も最近は増えていた

元々魔鈴はよくあるような堅苦しいレストランではなく、誰でも気軽に来れるレストランを目指していただけに現状はそれに近付いていると言えるだろう

日本で本格的なヨーロッパ系の料理となるとどうしても敷居が高く感じるが、ヨーロッパでは当然大衆向けの日本の食堂のようなレストランも結構ある

魔鈴としてはそんな店が理想だったようなのだ

無論料理は本格的だし味に妥協はしてないが、だからと言って高級感を売りにはしたくないらしい


「うちの店にもシロちゃんくらい愛想がいい子が居ればな~」

「今時あんな子居ないって」

そんな夕食時の店内では近所の商店街の親父達が集まって飲んでいた

彼らはよくあるような営業スマイルではなく、本物の笑顔が絶えないシロを見て少し羨ましそうに話しをしている

タマモが料理の腕前や魔法の腕前を上げた分だけ、シロは持ち前の明るさと笑顔で着々と店の評判を上げていたのだ

まあシロの評判は当初からよかったが、接客になれると更に評判を上げていた

何より一度でも来た客を匂いで覚えるだけに、意外と接客が合ってるのかもしれない


「おまちどおさまでござる!」

一方そんなシロから見た魔鈴の店は、単純に楽しいという気持ちが大きい

シロとしては美神事務所時代も特に不満はなかったが、現在の方がやり甲斐や楽しさを感じてるのは確かだろう

精神的に大人な部分と子供の部分が入り混じったシロの感性は案外難しい部分もあるが、その辺りは魔鈴が上手く対応しており横島にはない細かな気遣いで上手くやっている

放任主義の令子とは対照的ではあるが、母親のような姉のような魔鈴の存在はシロにとってもいい影響を与えてるのは確かだった


「シロちゃん、相変わらず頑張るねえ~ うちのバイトにも見習わせたいよ」

「拙者などまだまだでござる! もっと精進せねば」

そんな中でシロが料理を運んだのは商店街の親父達のテーブルだった

すっかり顔なじみであり顔を合わせると世間話をしたり、売れ残りの野菜や肉などをくれたりすることもある人達だ

褒められたシロは自分はまだ半人前だと言い切りもっと精進すると告げるが、尻尾は嬉しそうにパタパタと揺れている

頑張り屋な反面で気持ちがすぐに相手にばれるシロの姿は、常連達の笑顔を誘ってしまう

別に魔鈴が悪い訳ではないが以前の一人で頑張っていた頃の魔鈴と、人懐っこいシロでは明らかにシロの方が評判がいい

実際魔鈴の店に近所の商店街の人達がよく来るようになったのは、朝の散歩ついでにシロが仲良くなったことも影響している

シロがフロアに居ないと風邪などを心配する常連もいるほど存在感は大きかった


あれから二年目のこの日もシロの笑顔は変わることはなく、店内は明るい笑顔と笑いに包まれていく


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