秋の夜長に……

街がオレンジ色の夕焼けに染まり始める頃、横島は魔法のほうきで出前をしている最中だった

昨年のクリスマスに魔鈴から貰った魔法のほうきは、すっかり横島に馴染んでおり自転車や車よりも便利である

物珍しいせいか注目を集めることもあるが、最近は店の近所では驚く者はいない

まあ時折子供達が寄って来たりはするので地域の子供達と顔見知りになっていた横島だが、トラブルなどはなく逆に店の宣伝になっていたりする

以前近所の学校に弁当を販売した影響もあり、魔法料理魔鈴の知名度は日々上がっていたのだ


「次は……、あっちか」

そして都心の交通渋滞と無縁な魔法のほうきによる出前は、ある意味魔法料理魔鈴の独壇場と言ってよかった

横島一人で普通のバイクでの出前に比べて、二倍や三倍も配達が出来るしスピードも早い

まあ料理の値段が普通のデリバリーのピザなどと比べると流石に高いので彼らのシェアを全て奪うほどではないが、それでも十分な儲けになっている

そんな横島はこの日も出前の為に飛び回っていたが、西の空に沈んでいく夕焼けが目に入り思わず目を細めてしまう


(もうすぐだな……)

今でも忘れることはないし、以前のように毎晩ではないが夢に見ることもよくある

最近はある日突然ルシオラが戻って来て、魔鈴とルシオラを合わせようとする夢を見ることもあった

忘れるつもりもないし絶対に取り戻す覚悟はようやく出来たが、二年過ぎてもまだこの状態のままなことが少し悔しくもある


「焦っても意味はないか」

時々どうしようもなく焦る気持ちが沸いてくる横島だが、ルシオラの復活が現時点で不可能なことは気付いていた

仮に子供への転生が可能ならば、魔鈴の性格上横島に言うだろうと思うのだ

何も語らぬ魔鈴を見ているとルシオラの復活がいかに難しいのか実感している


「俺が魔鈴さんに追いつくのが先か……」

焦りや不安は当然横島にもあるが、毎日努力する魔鈴の姿を見ていると焦りや不安は決して表に出せない感情だった

横島自身GSを辞めた後もオカルトの勉強を続けているのは、やはりルシオラの復活の為なのだ

それを理解して愚痴も言わずに一人復活の方法を探す魔鈴に気付いている横島は、早く魔鈴の実力に追い付き一緒に頑張れるようになるしか今は方法がない

それが近道なのか遠回りなのかは横島にはわからないが、魔鈴やタマモやシロなど横島を信じてくれる者達のこともルシオラと同じくらい考える必要があった


「おっと、早くせんと冷めるな」

僅かな時間飛びながら考え込んでいた横島だが、今の生活や得たモノを守るのも必要である

少し苦笑いを浮かべた横島は、魔法のほうきのスピードを上げて次の配達先に急いでいく

それがいいことなのか悪いことなのかは不明だが、横島はルシオラも今の生活もどちらも守りたかった

そしてその覚悟だけは人一倍持って足掻き続けている




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