秋の夜長に……

その頃令子は東京湾アクアラインの海ほたるに来ていた

そこはアシュタロス戦の最後にGS達が最終防衛ラインを引いた場所であり、アシュタロス戦終了後に横島と話していた場所でもある

特に理由も無かったのだが、なんとなく来てしまったというのが正しい

令子は何を考えるでもなく海風に吹かれているだけである

慰霊祭も終わり、人々の煩わしさから逃げるように車を走らせたらここに来ていたのだ


(辞めちゃおうかしら)

何も考えることなくしばらく風に当たっていた令子だが、ふとGSを辞めて何処か遠くに行きたいと考えてしまう

以前のようにGSの仕事にもお金にも情熱が持てない令子は、どこかで一人のんびりとしたいと思ったようである

かつて憧れた母親は今もイキイキと働いているように令子には見えるが、結局自分とは価値観が違うと最近気付いていた

令子には美智恵のような煩わしい人間関係をどうこうしたいなどの思いは全くないのだ


(迷惑な話よね……)

この場所に来ると思い出すアシュタロスや前世のこと

しかし令子にとっては全て迷惑なだけである

アシュタロスも前世も約束も令子にとっては迷惑なだけだった


(苦しめた原因は私かもしれないわね)

最近令子は一つの出来事を後悔している

基本的に過ぎたことは気にしない性格の令子にしては珍しいことだが、前世のことを思い出すと後悔することがあるのだ


(子供への転生なんて絵空事なのよね)

令子が後悔してることは、かつて自身が苦し紛れに話したルシオラの横島の子供への転生である

魔鈴が現在苦しんでるように転生の話は可能性はゼロではないが、実際に方法があるかと聞かれるとないのだ

魔鈴ですら不可解なことを令子が方法を知るはずもない

あの時は横島の為に言ったつもりだったが、結果的にはあの言葉が現状の原因かと思っているようだ

まあ令子としては今はもう関係ないとも考えているが、自分の前世を思い出すと中途半端な希望を未来に残すのは必ずしもいいことだとは思えなかった


(ごめんね………)

心の中で呟いたその一言が誰に向けられたものかは解らないが、令子が過去を後悔してることに変わりはない

そして一日も早くルシオラが復活して、アシュタロスとの因縁を全て終わらせて欲しいと密かに願ってやまなかった



同じ頃、唐巣の教会にはエミが訪れていた

雪之丞とタイガーの顔を見ると少し表情を変えるが、口に出して邪魔だとは言わないらしい


「いつもいい依頼を紹介して頂いてすいません」

例によってエミは甘えるようにピートにくっついているが、最近は以前のようにあからさまに逃げることは無くなっていた

雪之丞やタイガーと共にGSとして教えてもらう立場になっているし、エミから紹介される依頼はブラドー島の仲間がいるピートにとって無くてはならないものだったのだ

まあ元々は魔鈴から流れていく依頼も結構あるが、それを加えてもピートはエミを邪険に扱える立場では無くなっている



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