秋の夜長に……

さてこの日の魔法料理魔鈴だが、いつもと同じように営業していた

二年前の当事者や被害者にとっては特別な一日なのだが、大多数の一般人にとってはすでに過去の出来事になりつつある

慰霊祭などが大々的に行われる一方で街は普段とさほど変化がない日常だった

横島があえて普段の日常を選んだように、当事者達もまたそれぞれの未来を歩き出している



「マジかよ……」

「まさか自力で覚えるとは思いませんでした」

そんなこの日のお昼時を過ぎた厨房ではタマモが自分達の昼食用にと料理を作っていたのだが、なんと彼女は魔鈴の魔法料理を自力で再現してしまっていた

ほんの僅かな魔法で素材を生かすのが魔法料理の基本であり、それは決して難し過ぎる技術ではないがかなり繊細な技術ではある

春からひたすら魔鈴の助手として活躍していたタマモは、見ていただけで魔法料理の基礎を習得していたのだ

その成長に横島とシロは目を丸くしてしまい、魔鈴ですら驚きを隠せない

魔鈴は以前横島に魔法のほうきを召喚する魔法は教えたが、魔法料理はあれと比べると数段難しく複雑である

何より料理と魔法のバランスは見た感じ以上に難しく、センスがなければとても出来ないものだった


「毎日何回も見てれば流石にこのくらいは覚えるわよ」

「クッ……、拙者も負けてられないでござる!」

若干悔しそうなシロにタマモは自信ありげの笑みを見せてからかうのだが、シロは見事に乗せられて魔鈴に自分も魔法料理を覚えたいとねだり始める

魔鈴はそんなシロをなだめつつも、妖怪としてのタマモのスペックの高さに改めて驚いていた

一緒に住んで半年を軽く過ぎた魔鈴達だったが、雪之丞の修行に付き合ったりするシロが実力をメキメキと上げてる反面でタマモはあまり表立った成長が見えなかったのだ

無論料理の腕は恐ろしいほど上がったが、妖怪としての霊能という点では今回見るまであまり成長を感じなかったのだから


「見てるだけで覚えるなら誰も苦労はしないと思うが……」

「伝説になるはずですね。 本気で学べば数年もしないうちに私の魔法なら越える気がします」

シロとタマモが口ゲンカというか競うようにじゃれ合う中、横島と魔鈴はタマモの凄さを改めて実感している

そして基本的にシロのように見える範囲の努力はしてないが、タマモはタマモなりに考え成長しているのだと改めて理解したのだ


「魔法だの妖術だの名前は違っても根本は似たようなモノなのよ。 私も魔鈴さんのまね事くらいはね」

タマモが作った料理は魔鈴の魔法料理そのものだった

見た目から味まで全く同じなのだから魔鈴が驚くのも無理はない

そもそも魔鈴の魔法料理の基礎は中世の魔法に変わりはないが、それを現代の食材や料理に合わせてアレンジしたのは魔鈴自身なのだ

魔鈴独自の感性や手法をそのまま覚えるのは、並の人間や霊能者では難しいはずなのである



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