秋の夜長に……

さてこの日の妙神山だが、久しぶりにベスパが訪れていた

ワルキューレが気を利かせてベスパを休みにしたらしい

そんな訳で妙神山を訪れたベスパだが特になにかをする訳でもなく、パピリオと一緒に妙神山の母屋の屋根に登り空や周囲の山々を見ていた


「もう二年なんでちゅね……」

「おかしなもんだね。 本来ならどっちが勝っても私達はとっくに寿命が尽きてるはずだったのに」

二年という時間の流れはパピリオとベスパにとって、感慨深いものがある

本当ならばアシュタロスの計画の成否に関係なく、自分達の寿命はとっくに尽きてるはずなのだから


「思えばあの時パピリオが、あいつをペットにしたいと言い出したのが始まりなのかもね」

二年という本来ならばありえないはずの節目を迎えたベスパは、ふと横島と出会った日を思い出していく

妙な流れというか、未来が変わった瞬間はあの時のパピリオの一言が始まりだった気がするのだ


「パピの勘は正しかったんでちゅ」

懐かしそうにあの日を思い出すベスパにパピリオは自信満々な表情で胸を張り、思わずベスパは笑い出してしまう

偶然か必然かは知らないが、パピリオがいなければ横島は捕われることもルシオラと愛し合うこともなかったのだから


「いつの日か……、姉さんと三人であの日を思い出せる日が来るといいね」

「そうでちゅね」

あの日から二年が過ぎこれからも月日は流れていくだろう

ベスパとパピリオはいつの日か姉妹揃ってこの日を迎える日を願いつつ、今日と言う日を生きていく



一方ベスパ達の足元である母屋では、ジークが訪れ小竜姫と話をしていた


「とりあえず一安心ですね」

「私達を百パーセント信頼したという訳ではないのでしょうが、彼女にとっても利点は大きいですからね」

今回ジークが訪れたのはベスパと同じく休暇のついでだったが、タマモの協力を取り付けた今後の相談も兼ねている

一応通信鬼では説明はしたが、細かい打ち合わせは直接行うことも少なくなかったのだ

以前にも説明したが神魔の交流が停止してる現在最高指導部以外では唯一交流が続く妙神山とワルキューレ達は、非公式ながらその交流が神魔界の注目を集めている

横島を間に挟むという体裁があり名目上は間接交流になってはいるが、神魔界としても妙神山とワルキューレ達のラインは絶対に切れないモノになっていた

小竜姫やワルキューレ達が事実上横島の保護を行っていることも、それなりに神魔界では知られている

横島を狙う者が現れないようにとの抑止力としても、双方共に交流が盛んに行われているのだ


「私達が本当の意味で信頼を築くには今しばらく時間が必要でしょう。 まあ現状ではその時間は十分ありますし心配無用だと思います」

そしてタマモの件に関しては小竜姫としても無条件で信用しないタマモの用心深さを評価しているのだが、それでももう少し信頼関係を築く必要があると考えている

ただ小竜姫としてはその時間を焦るつもりはないらしく、時間をかけて本当の信頼関係を築きたいと考えてるらしい

結局小竜姫とジークは今後の打ち合わせをしつつこの日を過ごしていく


23/41ページ
スキ