秋の夜長に……

その頃、六道冥子は自宅の庭で綺麗に咲く花を摘んでいた

鼻歌混じりに式神達と一緒に楽しそうに花を摘む姿は六道家ではそれほど珍しくないのだが、そんな冥子の元にお手伝いさんがやって来る


「お嬢様、仕事のお時間です」

「今日はお仕事無かったはずよ~」

お手伝いさんは冥子に仕事の時間だと告げるが、冥子の記憶には仕事の予定など無かったらしく不思議そうに首を傾げていた


「本日は奥様より慰霊祭へ行くように言われております」

冥子自身は仕事を入れたつもりは無かったのだが、六道家の人間として冥子は慰霊祭に参加しなくてはならないのだ

母親である冥菜に言われていたらしいが、冥子は全く記憶にないらしい


「今日はお墓参りに行くって言ったのに~」

「慰霊祭の後に行くようにとのことです」

堅苦しい慰霊祭など行きたくない冥子は駄々をこねるようにお手伝いさんに行きたくないと言い張るが、母親が決めた予定には逆らえないようだ

結局冥子は渋々準備をする為に屋敷に戻っていく



そして西条は出勤前に東京タワーを訪れていた


「君も僕のことを恨んでるのだろうか?」

車から降りて東京タワーを見上げた西条は、ふと独り言のように自分の中にある想いを口に出してしまう

西条はルシオラを犠牲にするつもりなど全く無かったし、望んでもいなかった

人と魔族であるルシオラを同じとは考えないが、横島の幸せを奪いたいと考えるほど西条は横島を嫌っては無かったのだ

価値観や考えの違いが大きいが、西条は西条なりに横島やルシオラのことを考えていたのである


「僕には今の横島君の気持ちは理解出来ないんだ。 しかし横島君はきっと幸せだろう。 それはよかったと思うよ」

誰にも話せない本心を、西条は答えの返って来ない赤い墓標に向かって語りかけていく

西条は今も横島の考えは理解出来ないが、令子と付き合う大変さを理解して少し横島への印象が変わっていた

無論令子を傷つけたことが許せないのは変わらないが、反面で僅かだが仕方なかったのかとも思う気持ちがあるのだ


「恨んでくれて構わない。 僕には僕の信念があるし、それは今の横島君とは相反するモノだからね。 ただ……、来世で君と横島君が幸せになることを願っているのだけは信じてほしい」

それは西条の中でのケジメの意味もあったのかもしれない

魔鈴が西条と対立する立場になっても西条の幸せを願ったように、西条もまた魔鈴や横島の幸せを願っている

そしてルシオラが横島の子供で生まれ変わった時には、幸せになってほしいと本心から願っていた

その後西条は東京タワーの建物の裏の方に花束を置くとそのままその場を去って行く

人の気持ちを理解せずに時には暴走気味の正義感を持つ西条だが、やはり根本は善人であった

西条自身これからも横島とは和解することはないし会うこともないだろうと思っているが、それでもいつの日か横島とルシオラが幸せになることを願ってる一人である

しかし横島や魔鈴がそんな西条の本心を知ることは今のところないだろう

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