秋の夜長に……

さて朝食を食べ終えた横島はタマモと一緒に仕込みを始めるが、魔鈴はシロと一緒に仕入れに向かう

仕入れに関しては横島達が来て以来何度かやり方を変えているが、基本的には魔鈴が築地などに直接仕入れに行くことが多い

無論業者に配達して貰う食材などもあり全てを魔鈴が直接仕入れてる訳ではないが、やはり直接仕入れの方が安いために魚介類などは直接仕入れにこだわっている

人選としては魔鈴が仕入れの場合は仕込みが出来るタマモが残り仕入れをするのが基本であり、後は横島とシロが双方に分かれる形だった

これはやはり純粋に料理の腕がメキメキ上昇してるタマモが仕込みを覚えた為に現在はこの形になっている


「馬鹿ね。 素直に今日は休めばいいのに」

魔鈴達が仕入れに出た後仕込みを始める横島達だったが、タマモは魔鈴が心配する中でも仕事をすることを選んだ横島に呆れた口調で声をかけていた


「別に意地張ってる訳じゃないって。 ただ休んだとこでアイツが戻って来る訳じゃないしな。 いつか会えるまでは前に進むしかないからさ」

今日という日が特別なのは変わらないが、横島は令子やおキヌよりも一歩も二歩も前に歩み出している

魔鈴達は当然心配するが、横島は今日が特別な日だからと言って今の歩みを止めたく無かったのだ


「あんたがそれでいいならいいんだけどね……」

「一年前とは変わったんだと思う。 今はルシオラのことをこうして普通に話せる相手が居るからな」

横島が予想以上に前向きな現状にもタマモは表情を変えずに仕込みをしながら返事をするが、横島は普通にルシオラの話を出来る今の環境が心地よかった

実は復活に関しては全く進んでないが、それでも一緒に話を出来て考える人が居る環境は横島に多大な影響を与えている

まるで居なかったかのような扱いだった去年までと比べると、現状がいかに横島を安定させてるかがよくわかる結果だった


「それだけ愛されてるシオラさんは幸せね」

「そうかな?」

「私はそう思うわよ。 羨ましいくらいだわ」

淡々と会話を続ける二人だが、ルシオラが羨ましいと口にするタマモに横島は驚きの表情を浮かべ見てしまう

あまり自分の気持ちを語らないタマモが、素直に愛情を欲するような言葉を口にするのは少し珍しいのだ

「お前なら何年かしたら好きなだけ男を選べるだろうが」

「そうね。 横島より強くていい男が居たら考えてみるわよ」

「俺が基準かよ。 せめてピートか銀ちゃんにしろよ」

ルシオラが羨ましいと語るタマモが横島は少し不思議に感じるが、タマモは嘘か本当か横島よりいい男だったらと口にする

横島は冗談だと受け取ったらしく笑っているが、タマモもまたクスクスと笑っているだけだった


「しばらくは横島の面倒をみててあげるわよ」

「俺は子供じゃねえぞ」

「そうね。 子供じゃないから私が面倒見なきゃダメなのよ」

結局その後も冗談のような会話を続ける二人だが、横島もタマモも楽しそうだったのは確かだろう

実際タマモの言葉がどこまで冗談かは本人にしか分からないが、横島は特に追求はしなかった

元々お互いを偽り続けた割には妙な信頼があった関係だっただけに、横島はタマモを信じているようである


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