秋の夜長に……

「私は時々思うのだよ。 今の横島君と私達を見て君がどう思うかとね。 私には君がいつか私の疑問に答えてくれる日が来ることを祈るしか出来ないが……」

毎日悩みながらも祈ることしか出来ない唐巣は、自分の無力さを歎きつつも出来ることをするしかなかった

例え後世の人々に嘘つき呼ばわりされようとも、今はアシュタロス戦の真実を公表など出来ないし人々の前に出る役割は必要だった

エミや魔鈴はアシュタロス戦絡みで人前に出るのを望まないし、横島や雪之丞達は記録に名前すらないのだ

結果的に唐巣がGS協会側の代表的な役割を果たさねば、GS協会とオカルトGメンの関係は今以上に悪化してしまう

オカルトGメンと美神家の一人勝ちを防ぎ、オカルトGメンとGS協会との関係改善は将来の為にも必要だと考えている

何はともあれ唐巣の一日は慌ただしく始まっていく



同じ頃小笠原エミは自宅でいつもと変わらぬ朝を迎えていた

一人暮らしな為に特別言葉を発することもなく簡単な朝食を食べるのだが、ふと付けたテレビでは二年前の映像が流れている

通常のカメラだからか悪霊こそはっきり映ってないが大量の悪霊が街を飛び交う様子は、あまりのショッキングな光景に戦後しばらくは映像を流すのを止めていたほどのインパクトがあった

ただ二年目を迎えた今日はその映像を交えて、あの霊障を風化させないようにとオカルト専門家が霊障に会った場合などの対象方法を説明するなど放送する内容は変化している


「あの女は、本当に真実を永遠に消し去れると思ってるのかしら?」

特に真剣にテレビを見ていた訳ではないが、当時のオカルトGメンの活躍と二年前に開かれた美智恵の会見を見たエミは思わずその姿が滑稽に見えてしまう

やがて真実は歴史の表舞台に明らかにされるとエミは理解している

そうなれば美神美智恵は英雄から転げ落ちるだろう

真実が明らかになった歴史に美智恵がどう書かれるのか、エミは見てみたい気がした


「もしかしたらそこまで理解しても、それでも……」

ただエミは美智恵が全てを理解しても、それでもこの方法を選んだのではとも思う

どちらにしろ美智恵の立場ではアシュタロスと令子の関わりだけは秘匿しなければ、令子が生きる場所は世界から無くなってしまうのだ少なくとも美智恵は令子が幸せに生きるだけの時間は稼いだことになる


「私には関係ないか」

正直エミは美智恵が何を考えていたかは興味がないし、一緒に仕事をすることは二度とないと考えていた

それだけアシュタロス戦の美智恵の行動は不審な点が多く信用できない

オカルトGメンが絡むような危険な事件で一緒に戦う者が信頼出来ないのは致命的としか言いようがないのだ


「貴女はルシオラを救うべきだったのよ。 せめて救うべく努力する姿勢を見せてれば、違う未来だったはず……」

二年前の会見の映像の美智恵に、エミはつぶやくように一言語ると再び無言になる

未来を変えて過去に戻った美智恵が、悲しみで苦しむ者の前に笑顔で現れれば横島でなくとも怨まないはずがないとエミは思う

多少のリスクを負ってでも美智恵は最後にルシオラを助ける行動に出れば、きっと横島は今も令子の元に居ただろうと考えると少し複雑な心境になるようだった


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