秋の夜長に……

「おはようございます、愛子さん」

「あら小鳩ちゃん今日は早いわね」

一方横島の卒業した高校では、小鳩と福の神の貧がクラスで一番早く登校して来ていた

日頃から早めに登校してくる小鳩達だが、今日はいつもより早い


「二年前の今日だったんですね。 私……、昨日はあんまり眠れませんでした」

かばんを自分の席に置いた小鳩は愛子を見つめ静かに口を開いていた

今日という日と話に聞いた二年前の出来事を考えてたら寝れなかったらしい


「横島君はきっといつもと同じように仕事してるんでしょうね。 本当に辛い時に限って隠すんだから……」

小鳩の言葉に愛子は僅かに笑みを浮かべて今日の横島を想像している

きっと横島は今日もいつもと同じ笑顔なのだろうと……


「ずっと隣に住んでいたのに、私は全然気付けなくて」

「私も同じよ。 横島君はSOSを出していたのにね」

お互いに同じ想いを共有するだけに、今日という日と二年の月日は感慨深いものがある

小鳩も愛子も横島が出していた微かなSOSは感じてはいたが、見過ごしてしまったのだ


「どんな人だったんでしょうね」

「とっても綺麗な大人の女性だったわよ。 私一度だけ学校の校門まで来た時見たことあるの」

ぽつりぽつりと会話を交わす二人は静かに窓から校門を見つめるが、それは遠く表情までは見えない距離である

しかし小鳩は一目でもルシオラを見た愛子が少し羨ましいと感じてしまう


「愛子さん、今日の放課後時間ありますか?」

「あるわよ。 私もちょうど小鳩ちゃんにお願いしようと思ってたの」

同じタイミングで同じことを考えていた二人は、顔を見合わせ思わず笑い出してしまう

誰かの為とか何かしたいとかではなく、二人はただ純粋に行きたい場所があった



一方唐巣は自分の教会で今日の予定を見つめ複雑な表情を浮かべていた

唐巣も当然慰霊祭へ参加する予定が入っているが、他にもGS協会と警察庁との合同会議など予定が立て込んでいる

アシュタロス戦の英雄として名高い美神親子を除けば一番知名度があり、GS協会の幹部の中でも抜群の知名度と人望がある唐巣はGS協会を代表して対外的な会議への参加や表敬訪問などすることが増えていた

この日は特にアシュタロス戦から二年目な為に、唐巣の予定は夜までビッシリと詰まっている

しかし自分がアシュタロスを倒した一員として代表することに、唐巣は抵抗感が強かった


「これは私の罪なのかもしれないね。 神に仕える身でありながら偽りの真実で人々を騙している私の……」

かつて唐巣は真実が必ずしも幸せになるとは限らないと言ったことがある

その考えは今も変わらずそう思うが、同時に本当に苦しみ戦った者を隠し世界を救う為に犠牲になった者を隠している自分に罪悪感を感じずにはいられなかった

例え本人達がそれを望んでいるとしても……

真実の公表は決して横島の為にならないし、それはルシオラも望まないだろう

そう分かっていながらも唐巣は人々を騙し真実を覆い隠す自分が本当に正しいのか疑問を感じずにはいられない



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