秋の夜長に……

「それにしても栗がたくさんありますね…… しかも山栗なのに粒が大きい」

キッチンに行った魔鈴は、ザルに山のように積まれた栗の山に驚いていた

自然にある山栗を魔鈴は以前に何度か食べた事があるが、これは大きさもあるし量も半端ではない


「周りは山ばかりですからね。 こういった物はたくさんあるんですよ」

妙神山付近の山々は人間が立ち入ることが滅多になく、自然そのものであった

しかも神界と繋がる妙神山の影響からか周囲の山々は活力溢れており、山の恵みなどに事欠くことがなかったのだ


「そろそろ来る頃だったので、先日パピリオやヒャクメと一緒に拾って来たんです」

魔鈴が驚くほどの質のいい山栗が大量にあるのだが、日頃横島や魔鈴に差し入れを貰っている小竜姫達がお返しをしたいと集めたらしい

実は小竜姫は以前に横島にお礼として小判を渡そうとしたが、何故か横島が受け取らなかったことがあったのだ

差し入れと釣り合いが取れないし、来る度にご馳走になってるからと断っていたのである

基本的にお土産になるような物がない妙神山なだけに、小竜姫がこの時期にたくさんある山の恵みをお土産にすることを思い付いたようだ


「ありがとうございます。 せっかくですから調理する前に味見してみましょうか?」

わざわざ小竜姫達が集めたとの事に以前の自分ならこの場で恐縮していたのだろうと考える魔鈴だが、小竜姫があからさまな態度を好まないだけに一言お礼を言うだけに留めている

最低限の敬意を払うことは当然忘れないが、必要以上の気遣いは逆に小竜姫を不快にする可能性が高い訳だし


「そうですね。 私も今年はまだ食べてないんですよ」

お礼もそこそこに栗を試食しようと言い出す魔鈴に小竜姫も乗り気なようで、二人は七輪で栗を焼き始める

包丁で切れ目を入れた栗に徐々に火が通って香ばしい香りがするのを、二人は楽しみな様子で見守っていた


「栗の匂いがするでござる!」

二人が栗を焼き始めてから数分後、ゲームをしていたシロは突然立ち上がりクンクンと匂いを嗅いで、栗の匂いに釣られるようにフラフラと歩き始める


「本当か?」

「パピが小竜姫達と一緒に拾った栗でちゅよ。 横島達のために頑張ったんでちゅ」

シロとタマモは栗の焼ける匂いにすぐに気付たようだが、当然横島は全く気付くはずがなく首を傾げていた

しかし自分の頑張りを強調しつつパピリオが横島達へのお土産だと話すと、シロは我慢出来ないのかキッチンの様子を見に行く


「あら、シロちゃん」

栗を焼き始めて数分で目を輝かせたシロが現れると魔鈴と小竜姫は思わず苦笑いを浮かべるが、当然お預けとは言えなかった


「味見するだけですから一人一個ですよ」

「ク~ン……」

七輪に栗を横島達も含めて人数分足すと、魔鈴は後でお菓子を作るから今は味見で我慢するようにシロに言い聞かせる

山のように大量の栗にシロはせつなそうな表情を見せるが、一応我慢する気はあるらしく素直に頷く

しかしシロの視線は栗にチラチラと移っており、出来るならばお腹いっぱい食べたいとの本音がまる見えであった



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