「偶然かもしれんし、ただの噂なのかもしれんしよく分かららん。　だが俺はあの事件で彼を見たのは確かで戦後には彼の名前は公式記録にはなかった」

自分の知る範囲で説明するアンディに綾は興味津々な様子だが、結局それ以上の真実を見抜くのは不可能だった

事件から二年が経過して噂は広がり意味不明な都市伝説のような扱いであり、実際に信じてる者はほとんどいない

ただ当時流れた噂としては少年が活躍したとの噂が多かったのは事実である


「まるでミステリーね」

「まあな。　俺もオカルトは詳しく知らないが、彼がかなりの修羅場を経験してることは確かだろう。　もしかすると何かしらのトラウマを抱えてる可能性もあるしな」

アンディが横島達の前でこの話を言わなかった理由はここにあった

銀行強盗に挑む時、横島の表情に僅かな違和感を感じていたためである

人は戦場などの苛烈な経験すると精神がダメージを受けることがあった

彼は軍隊でそんな同僚を見て来ただけに、もしかすると横島も何かしらのトラウマを抱えてＧＳを辞めたのかと考えていたのだ


「じゃあ向こうから話してくれるまでは、知らないフリしてた方がいいみたいね」

「そうだな。　実際世の中には知らない方が幸せな真実は山ほどあるからな」

結局綾とアンディは全て胸に抱えて知らないフリをすることになる

過去に何があったのかは知らないが、友人の幸せを壊すような真似だけはするはずがない

二人は次に会える日を楽しみにしつつ、横島と魔鈴が幸せになる事を願ってやまなかった



「ヒャクメ、どうでしたか？」

一方ふらりと魔鈴宅に現れたヒャクメは妙神山に帰っていたが、何故か心配そうな小竜姫が待っている


「問題ないみたい。　ただの偶然なのね」

そんな小竜姫に対してヒャクメも先程よりは大人しいというか冷静だった


「それはよかったです。　かの国の軍隊は霊能者を集めてるらしいと聞いたので、まさかとは思いましたが……」

「アシュタロス戦に参加した過去があるだけみたい　横島さんが目的ではなかったみたいなのね」

偶然だったと告げるヒャクメに小竜姫はホッとした表情に変わり一息つく

実は今日一日の横島達の行動は全てヒャクメにより監視されていた

偶然魔鈴の友人の恋人として来た人物が横島を知っていた事実に、小竜姫とヒャクメは海外の組織が横島への接触を試みたのかと疑っていたのだ

小竜姫の名前により日本国内のオカルト関係者は横島に手を出す者は居ないが、海外の人間なら別である

現状で横島の平穏が脅かされると、横島達だけでなく神魔界にも影響を与えてしまう

現在停止中の神魔の交流を無自覚のまま唯一仲介している横島に問題が起きると、神魔界にまで悪影響を与える可能性もあった

以前から小竜姫達はワルキューレ達と連携しながら、横島の身辺には密かに気を配っていたのだ

今回はたまたま直接見に行ける話の流れだった時に、ヒャクメが突撃したらしい