嵐を呼ぶ再会

横島の雰囲気が変化したのはその時だった

表情というか纏う空気がガラリと変わる姿は、言葉ではなかなか言い表しにくいものがある


(横島さん……)

魔鈴がそんな横島の姿を見るのはあの日の夜以来だった

二人にとっての運命とも言えるあの夜、横島が魔族から魔鈴を守った時以来である

他には悪霊により飛行機が損傷した時や臨海学校の時にも横島の雰囲気が僅かに変わるほど真剣になったが、あいにく魔鈴が見たのは今回が二回目だった


(すごい……)

横島の変化に魔鈴はただただ驚くばかりだ

魔鈴も横島の実力は理解してるつもりだったが、危機陥った時の集中力や対応力は直接見たことがなかったのだから


(あの美神美智恵さんがこだわるはずですね)

美智恵が何故横島にあれほどこだわったのか、魔鈴はこの時改めて実感する

令子の元で数多の危機を経験をしてきた過去は決して無駄ではなかったのだ

元々の性格が戦闘に向かない為に日頃の生活では表に出ない戦士としての経験と力量は、魔鈴でも分かるほどに凄まじい


(でも……)

美智恵が横島を恐れ手元に置こうとした理由はよく分かるし、単純に第三者として横島を見ればその力を埋もれさせるにはあまりに惜しいとさえ考えるのも仕方ないと思う

しかし魔鈴は横島の心が上げる微かな悲鳴のようなモノが聞こえた気がした

奇跡と讃えられる能力とそれを自在に扱える発想力と経験は恐らく人類でも屈指のモノだろう

だが問題は横島の心が普通の十代と変わらないことだ

あまりに短期間で様々な経験と成長をした横島の心は未だ霊能者にも戦士にも成りえてない

数々の危機を乗り越えた経験は横島の力となっているが、同時に傷にもなっている

ある意味横島の本気は両刃の刃となっていることに魔鈴は気付いてしまう

魔鈴は思わず横島を止めようと手を伸ばしかけるが、この状況で横島を止めれば友人の命が危ないかもしれない



そんな魔鈴が葛藤してるなど気付かぬ横島は、静かにタイミングを見計らっていた

手の中には【閃】と【防】の文珠があり、後は犯人達が隙を見せた瞬間に文珠を使うのみである


それはほんの僅かな瞬間だった

犯人達が二人の人質を前面に出し銀行から出ようとした瞬間、横島達に視線を向ける者がいなくなる


横島はその瞬間を逃さなかった

文珠を霊力でコントロールして犯人達と人質の間に飛ばすと、まずは【閃】で犯人達の目を眩ます

文珠の閃光に犯人達が怯んだ隙に【防】の文珠を発動させて人質と犯人の間に結界を貼る

この一連の作業を終えるまでに横島がかけた時間は僅か二秒で、文珠の閃光が消えぬ前に横島とアンディは動いてた

いつの間にかサングラスをしていたアンディはともかく横島は裸眼なのだが、それでも閃光を見ないよいにしながら犯人達との距離を一気に縮める

二人は人質に近い犯人から順番に制圧していくが、突然の閃光に目が眩んだ犯人達にはどうしようもなかった

ましてアンディは正規軍人であり対人戦闘のプロなのだ

横島は実は対人戦闘の実戦経験はあまりないのだが、一年以上雪之丞と様々な修行した成果が見事に発揮されていた


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