（私が居なかった方が上手くいったのかもしれないわね）

苦悩する西条を前に美智恵は自分の存在が、令子と西条の関係の障害になっていた事実に複雑な感情を持ってしまう

仮定の話になってしまうがもし横島が令子の元を去った時に美智恵が居なければ、令子は西条を頼りもっと関係が深まった可能性もある

それに美智恵が居なければ、西条ももう少し令子に対して強引に出れたかもしれない

まあ全ては結果論であり無意味な仮定なのだが、美智恵の存在が令子と西条の関係にプラスにならならなかったのは確かなのだ

元々美智恵は西条と令子の交際には賛成ではなかったが、それでも付き合った以上は幸せになって欲しかった

それが結局破綻した事実は残念で仕方ない


「申し訳ありませんでした」

美智恵の言葉に西条は、一言謝罪するとそれ以上は言い訳もせずに深く頭を下げるだけだった

西条自身は反省もあれば言い分もあるが、総合的には自分の判断が甘かったとしか言いようがない

美智恵が穏便に済ませようとする以上、西条もまた穏便に済ませるのが最善であった


「人の関係って難しいわよね。　私もこの年になってつくづく感じてるわ」

固い表情で謝罪する西条に美智恵は苦笑いを浮かべて本音を漏らしてしまう

アシュタロス戦後の令子を取り巻く人間関係の変化は、美智恵にとっても苦しく難しいものだった

横島と言うたった一人の少年の僅かな変化があまりにも大きな変化へと化けてしまったのだから、尚更そう感じるのだろう


「僕は横島君が許せない。　令子ちゃんから独立するにしても、何故もっと平和的にしなかったのか……」

人間関係の難しさを語る美智恵に西条はずっと抱えていた憤りを口にしていた

令子の笑顔を奪い傷付けた横島が西条は今だに許せないようである


「確かに横島君の辞め方は褒められたものじゃないわ。　でも横島君にとって私は恋人の敵だもの。　横島君は私を許せないと思うわ。　時間移動をして歴史を変えてまで令子を守りルシオラを犠牲にしたんだもの」

その言葉に西条の表情は再び凍りついてしまう

西条自身も美智恵のアシュタロス戦の行動には、疑問を感じたのは確かである

令子を守る為に美智恵は最善を尽くしたが、逆にあの事件の犠牲者からすれば美智恵が加害者になるのは避けられないのだから


「横島君はあの事件の後も彼女を忘れることが出来なかったんだと思うわ。　みんなが彼女のことを過去の事にしてしまった後、横島君は一人で彼女を求めていた」

ゆっくりと語る美智恵の話に西条はかける言葉が浮かばなかった

仕方ないと言えば仕方ないし美智恵が直接ルシオラを殺した訳ではないが、少なくとも美智恵には助けるタイミングがあったのだ

そして令子の為に時間移動までして歴史を変えた美智恵が、正しいかなど西条には分からない訳だし


「私は横島君が怖いわ。　もしも私が彼の立場だったら、絶対に許さないし私達の幸せを認めないもの。　何を考えてるのかは私にも分からないけど、今の横島君が私達を破滅させるのは簡単なのよ」

それは戦いの中に生きて来た美智恵ならではの考えだろう

横島の怒りをよく理解しており、もし自分ならば決して許せないと考えるだけに怖いのだ