突然だがここで少し時間が遡りまだ魔鈴が同窓会の一次会に居た頃、都内のレストランで西条と美智恵が久しぶりに二人で食事をしていた

互いに仕事は忙しいのだが、たまには一緒に食事をしようと美智恵が西条を誘ったのだ


「ねえ西条君、今日は上司ではなく一人の母親として話したいの」

いつもと変わらぬ様子で食事を始めた美智恵だったが、ふと仕事中とは違い優しい表情になると西条にゆっくりと話を切り出す

その優しい表情が逆に西条には怖く感じてしまうが、後ろめたいことがあるだけに自業自得たろう


「私は貴方の苦労を分かってるつもりよ。　貴方が居なければオカルトＧメンは成り立たないもの。　その上令子のことまで支えるのは大変でしょう？」

いつになく優しくまるで友人か恋人に語るように話す美智恵だが、西条は顔色こそ変えないが内心では自身の人生で最大のピンチだと考えていた

実は以前一夜を共にした女性と西条は今だに連絡を取っている

あれ以来肉体関係はないが、あの後一度食事には行ったのだ

美智恵や令子に囲まれ息の抜く暇がなかった西条にとって、普通だが優しい彼女が数少ない癒しになっていた


「西条君、貴方は貴方の幸せを求めていいのよ。　ただ令子の心にこれ以上傷を残す結果だけはして欲しくないの」

まるで死刑宣告を聞くような気持ちの西条は表情こそいつもと同じく真剣だが、自分のキャリアや人生が終わりだと感じる

美智恵の恐ろしさは誰よりも理解しているし令子への愛情の深さも西条はよく理解している

なまじいつもと違い優しいだけに、西条は何も言えぬまま美智恵の話を聞くしか出来なかった


「何か勘違いしてるみたいだけど、私は貴方を責めてる訳じゃないのよ。　誰だって間違いや失敗はあるわ。　私が言いたいのは終わらせるならちゃんと終わらせて欲しいの。　このままズルズル関係を続けてもお互いの為にならないもの」

変わらぬ表情からもまるで心を読むように話を進める美智恵は、令子との関係をきちんと終わらせて欲しいと告げる

令子と西条が付き合い出してからずっと見守っていた美智恵は、西条の大変さも苦悩も当然理解しているのだ

そして最近西条に何かあったことも当然気付いていた

美智恵自身も今の今まで特に確証はなかったが、今の西条の反応から他に女が居ると気付いてしまう

もう限界だと悟った美智恵は、令子と西条が穏便に別れる事を望んでいた

まあ元々恋人としての自覚がない令子と妹のような感覚が抜けてなかった西条だけにきちんと付き合ったのかは疑問が残るが、告白して形として付き合った以上はきちんと終わらせて欲しいのである

そして元のように兄のような立場に戻って欲しいのが美智恵の本音であった


「先生……、僕は……」

「西条君はよく頑張ったわ。　でも令子には時間が必要なの。　出来れば以前のように兄のように見守ってあげてね」

突然のことに言葉が上手く出て来ない西条に美智恵は少し悲しそうにそう告げるしか出来なかった