そのまま横島と魔鈴は大樹達と世間話程度の話をしていたが、大樹の視線がふと高宮の夫で止まっていた


「君はもしかして……」

高宮の夫と直接面識はないようだったが、大樹はどうやら彼を知っていたらしい


「村枝商事の横島専務とこんなところで会えるとは思いませんでした」

高見の夫も大樹を知っていたらしく、偶然の出会いに双方共に驚きながらも挨拶を交わしていく

この辺りは大樹達や高宮の夫は慣れた様子でもあるが、魔鈴と高宮の二人はあまりの偶然に流石に驚きを隠せないようである


「そうだ、今度うちと横島君のところでインターネットでのプロジェクトがあるんだが、君も参加して見ないか？」

挨拶から仕事の話などに入っていた大樹達だったが、いつの間にか大樹の接待相手の経営者の男性が思い出したように高宮の夫に仕事の話を持ち掛けていた

実際高宮の夫の会社はＩＴ関連で近年急成長した会社だったが、流石に大樹達の会社と比べると小規模である

戦後日本を支えて来た日本最大の小売り業の会社や村枝商事と比べるのは酷であった


「是非お願いします」

「じゃあ詳しい話は後日ゆっくり話そうじゃないか」

それはまさにあっという間の出来事だった

そのあまりの流れに横島も魔鈴も高宮も驚きで言葉が出ない

流石に正式な契約ではないが、高宮の夫は僅かな時間で新規の仕事を獲得したのだから驚くのも無理はないだろう


「いや～、君がまさか横島専務の息子さんだったとは……」

そのまま大樹と経営者の男性はその場を離れていくが、高宮の夫は嬉しそうな様子で横島に話し掛けていた


「おかげで大きな仕事を取れるかもしれない。　本当に助かったよ」

例によって金持ちには見えないほどの態度で横島に接する高宮の夫だったが、予期せぬ仕事の獲得に喜びを隠せないようである

正直横島としては礼を言われる立場ではないので若干困惑していたが……


「村枝の横島専務と言えば、確か南米最大のレアメタル鉱山を発見した人よね。　全然一般人じゃないじゃない」

一方高宮は大樹の素性も知ってるらしく、と言うか大樹は魔鈴が思った以上に経済界では有名人らしい


「私もそれほど有名だとは知らなかったんですよ。　村枝商事の専務をされてるのは知ってましたが、仕事内容まで聞いたことありませんでしたし……」

高宮は魔鈴が隠していたのかと若干不機嫌そうに睨むが、魔鈴自身も知らなかったことであり彼女も素直に驚いている

実際美神家との問題の時に百合子の凄さは知ってはいたが、正直あまり目立たなかった大樹の仕事内容などまでは聞いたことがなかったのだ

まあ百合子の旦那なのだし優秀なのだろうとは思っていたが、高宮が驚いたり大企業の経営者と親しげに話すほどだとは思わなかったようである


「相変わらず肝心なとこで抜けてるわね。　昔一度社内の派閥争いに負けて左遷されたらしいけど、左遷先で莫大な利益を上げて返り咲いたから有名なのよ。　しかも現地とかなり強いパイプを築いたらしくって、日本の国策にも影響があるほどの実績を上げたらしいわ」

魔鈴の驚き方から本当に知らなかったと判断した高宮は大樹の話を教えていくが、その内容には魔鈴はただ驚くしか出来ない