嵐を呼ぶ再会

それから数日後、異界の魔鈴宅から少し離れた場所で雪之丞とシロが朝から手合わせをしていた

両者共にイキイキとした表情で戦う姿は横島やタマモには無縁の姿である


「またやってんのか、あいつら……」

「朝から元気よね」

そんなイキイキした二人とは対照的に、横島とタマモは半ば呆れた表情で雪之丞とシロの手合わせを見ていた

まあ横島も修業は続けているが基本的に夜であり、流石に仕事前の朝から修業するほど修業が好きではない

元々横島は強くなりたいだけであって、雪之丞やシロと違い戦いを楽しんだり修業が楽しいなどとは思ったこともないのだ


「本当あいつらが羨ましいわ。 俺には戦いの何がそんなに楽しいのかさっぱりだ」

「私もあんまり好きじゃないわ。 基本的な価値観が違うのよね」

己の力を高める事に喜びを感じ競い合う事にやる気を出す雪之丞とシロが、横島は羨ましくて仕方ないようである

基本的に横島やタマモは戦わないならそれが一番だし、元々それほど自分の力を高めたいタイプではない

横島の場合は過去の後悔や今後の不安から修業してるのであって、雪之丞やシロのように修業を楽しんでる訳ではなかった

その価値観の違いは大きく、横島は素直に雪之丞やシロの性格が羨ましいようである


「うちで一番強くなるのがシロになるのも時間の問題だな」

潜在能力という点では、人間の横島や雪之丞よりはシロやタマモの方が圧倒的に上だった

しかもシロは横島や雪之丞のみならず、遊びに来るピートやタイガーとでも手合わせなどをしている

妙神山に行った時には暇そうな小竜姫にまで頼んで修業している事から、シロが魔鈴宅で最強になるのは時間の問題だった


「そういえばシロの教育の件どうなったの?」

「お前……いつの間にその話を……」

話が途切れた合間にタマモはシロの教育の件を横島に尋ねていた

横島や魔鈴はタマモにも言ってないのだが特別隠しもしてない

元々タマモは聴覚の出来が人間とは違うため、横島と魔鈴の日常の会話を聞いてしまう時があるようだ

まあ同じ聴覚が違うシロが修業などで落ち着かないのに対してタマモは落ち着いてるので、必然的にタマモの方がいろいろ知っている


「このままでいいんだってさ。 人と人狼の双方を理解するような大人になってほしいみたいなんだわ」

「そう……」

簡潔に説明する横島に、タマモはあまり驚きもせずに一言返事をして終わってしまう

もしかしたらある程度予想していた答えの範囲内なのかもしれない


「正直言うと俺は不安なんだけどな~」

「人狼は横島よりもシビアに考えてるのかもしれないわ。 彼らがこの先の時代を生き残るには人を知り人に合わせる必要があるもの。 昔みたいに人間と対立なんかしたら狩られて全滅するのがオチだしね」

不安そうな横島にタマモは妖怪側の本音を静かに語り出す

人の世界が変わりゆく中で、妖怪もまた変わらねばならない時代になって来たのだろうとタマモ自身も思うのだ

横島や魔鈴のような人間が生きてる間に、人とのいい関係のきっかけがほしいと考えるのは自然なのかもしれない


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