嵐を呼ぶ再会

「東京だと川に入るなんて考えられませんからね。 俺も親父の田舎で小さい頃に遊んだ経験があるくらいっすよ」

サラサラと流れる川は横島達が静かになると、いつもの静けさを取り戻していた

横島や魔鈴の近くでは、水から上がったタマモとシロが獣形態のまま木陰でウトウトとしている

濡れた体も水をブルブルと振り落とした為、もう半分ほど乾いてるほどだ


「どうせ濡れるなら始めから脱げばよかったですね」

「ブッ!!」

水で遊んでる時は良かったが、水から上がっても濡れたままでいると肌に張り付き少し不快だった

どうせ濡れるならば始めから服を脱いで川に入れば良かったと魔鈴が口にすると、横島はその姿を想像したらしく吹き出してしまう


「いくら人が来ない場所だからって流石に……」

「冗談ですよ。 まあ私としては他人に見られないならば構わない気もしますが、そうすると横島さんが大変でしょうから」

言葉では否定しつつも何かを期待するような表情をしてしまう横島に、魔鈴は思わずクスクスと笑ってしまい冗談だと告げる

正直魔鈴としては川で泳ぐなら下着姿でも構わないのだが、問題は横島の理性だろうと理解していた

流石にタマモやシロの前で横島の理性を刺激することは危険だと理解しているようである


「参ったな~ 魔鈴さんがそんな冗談を言うと思わなかったっすよ」

「それは偏見ですよ。 私も普通の人間なのですから、横島さんと同じで欲もあれば嫉妬もします」

からかわれたと気付いた横島はごまかすように笑っているが、魔鈴はそんな横島にふと思ったことを語り始めた

二人が付き合って半年を過ぎたが、横島は魔鈴を美化し過ぎていると魔鈴自身は感じている

無論横島への愛は嘘偽りがないと断言出来るが、魔鈴とて愛だけで生きてる訳ではないのだ


(金銭への欲を隠しもしなかった美神さんと、欲を見せる時間すらなかったルシオラさん。 二人の女性の影響でしょうかね)

横島が何処まで意識してるかは魔鈴には分からないが、横島の女性に対する理想像はかなり美化というか神聖化されている

その原因は幼い頃からのコンプレックスや百合子の教育もあるのだろうが、一番の原因は令子とルシオラという二人の女性だと魔鈴は思う

令子への嫌悪感や憎しみとルシオラへの愛情から、横島は知らず知らずに純粋過ぎる愛を求めている

しかし生きていれば純粋な愛だけでは済まされないのだ

元々横島が魔鈴に対して何かを要求することなどほとんどないから問題にはなってないが、行き過ぎた美化は魔鈴にとって少し重荷だった


「私は普通の女です。 欲に負けることもあれば人を憎むこともあります。 それでも私を愛してくれますか?」

少し困ったような不安そうな表情を浮かべる魔鈴を横島は無言のまま抱きしめる

正直横島には魔鈴が何を言いたいのかあまり理解出来てないが、横島にとって魔鈴は魔鈴であり仮にどんな欠点があっても気にならない

横島は自身の気持ちを示すように魔鈴を抱きしめ続けるが……

寝たフリをしている二匹には横島も魔鈴も気付いてなかった


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