嵐を呼ぶ再会

一方長老の元を訪れた魔鈴はシロの教育について相談を始めていた


「シロの教育ですか……」

最近のシロの様子などから始まり今後の方針などを長老に相談していくが、流石の長老も返答に迷ってしまう

確かに長老はいずれは人間との対立を無くし共存を願ってはいるが、その理想が簡単でないのは百も承知なのだ

加えて実は長老も細かな教育方針など考えたことがない

長寿な人狼族は人狼としての生き方は自然に身につくものであり、わざわざ教える習慣がないのだ

剣術や霊能の扱いのように教えるべき道筋があればいいが、思想や考え方を教育するといった概念がないのである


「基本的には妖怪として教育するべきだと私達は考えてます。 現状ではシロちゃんは私達の周りでは受け入れられてますが、未来永劫続くとは限りませんし将来的にはどうなるかなどわかりませんから」

現状で長老の考えは上手く行ってるし、シロは魔鈴や横島のみならず店の客や近所の住人にも受け入れられている

そこには長老も安堵するが、将来の不安を魔鈴が語ると長老の表情も険しいものに変わっていく


「そのままで構いません」

長老の言葉は魔鈴の予想外の言葉だった

人と妖怪の難しさを知り考えていた魔鈴は長老が現状のままでいいと言った事に驚きを隠せない


「魔鈴殿、人狼の子は親や仲間を見て自然に学び育つものなのです。 だからこそシロは魔鈴殿や横島殿の元でそのまま学ばねばなりません」

驚きの魔鈴に理由を語り始める長老だったが、彼は横島や魔鈴の価値を長老は正確に見抜いていた

シロの将来を心配して過剰に人間に染まらぬようにと考える横島と魔鈴だからこそ、シロにもそんな大人になってほしいとの願っている

人の身でありながら妖怪の気持ちを理解して考える事が出来る二人のような価値観が、これからの人狼には必要だと考えていたのだ


「長老様……」

横島と魔鈴はシロを人間と妖怪の狭間に置きたくないと考えているが、長老はシロが人間と妖怪の狭間で双方の気持ちを理解出来る存在になることを期待している

そして横島と魔鈴ならば、きっとシロを上手く導いてくれると信じていた


「魔鈴殿も横島殿もご自分の価値をあまり理解されてない様子だ。 わしは貴女達の想いを継ぐ者を未来に残す必要があるとも思っております」

横島と魔鈴はあくまでもシロの未来を考えていたが、長老はもっと広い視点で未来を考えている

それはシロには決して優しい道ではないのだろうが、人と妖怪が互いを理解して歩み寄る第一歩だと確信してるようであった

今は横島と魔鈴の周りの小さな輪だが、それがいつか世界に広がることを願って……


「お二人は妖怪であるシロの事を本当にしっかり考えておられる。 ならばわしが何か口出しする事はないのですじゃ」

シロの未来を真剣に考えて妖怪としての教育が必要だと言った魔鈴と横島を長老は信じていた

下手に人狼としての教育をするよりも横島や魔鈴のような大人になってほしい

長老はそう願わずにはいられなかったようだ


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