そのまま除霊は普通に終わり、魔理とピートは結局見ているだけだった

唐巣・ピート・魔理の三人は除霊が終了すると依頼人に是非お茶でもと言われ工場の事務室でお茶を出されるが、お世辞にも綺麗と言えない事務室に魔理は微妙な表情をしている


「本当にありがとうございました。　後三日遅かったらダメでした」

涙を浮かべて唐巣に感謝する依頼人は、よほどホッとしたのか今までの苦労話を次々に語っていく

はっきり言うと除霊には全く関係ない苦労話なのだが、唐巣は嫌な顔一つせずに話を聞いており逆に相手の愚痴を引き出すようであった


「忙しい中では大変でしょうが、もう少し掃除をされた方がいいですよ。　極端な話ですが綺麗な場所と汚れた場所では、悪霊の発生する確率が違うんです」

相手が一通り愚痴を語り満足そうになったのは、話し初めてからおよそ二時間後である

今まで聞き役に徹していた唐巣は話しの流れに乗る形で霊障の予防法を語り出す

まあ唐巣の場合はあまり理論的なことは言わないが、こうすれば霊障が起きにくくなるなど簡単に教えていく

相手の苦労話や自分の失敗談などを交えながら語る唐巣の話に、依頼人は驚きつつもメモを取るほど真剣に聞いていた

それはプロからすれば予防法と呼べないほど簡単で日常的な注意点だったが、唐巣はわざわざ依頼人に出来る範囲の方法を教えている

結局唐巣達が依頼人の元を後にしたのはその後一時間を過ぎた頃だった



「どうだったかね」

帰り道、唐巣はずっと無言だった魔理に今回の感想を尋ねた


「なんと言うか、その予想外でした」

慣れない敬語で答える魔理は言葉を選びつつも、戸惑いを感じたと素直に話していく

実際除霊は３０分で終わり、その後の会話の方が三時間かかったのは魔理としては全く予想も出来ないことだったのだ


「これが私のやり方なのだよ。　霊と向き合い人と向き合うのがこの仕事だと思っている」

戸惑う魔理に唐巣はただ霊を払えばいい訳ではないと告げ、時には除霊とは無関係な雑用的な頼まれ事をする事もあると笑って語る

人との繋がりを大切にしてＧＳとしてではなく、一人の人間として自分は除霊するのだと語る唐巣の生き方に魔理は圧倒されてしまう


「現代社会においてＧＳは必ずしも優しい職業ではない。　多くの矛盾や悲しみの上に成り立っている。　令子君のように全てを仕事と割り切るのも一つの方法だし、私のようなやり方も一つの方法でしかない。　今日の事を一つの例だと思ってよく考えるといい」

結局唐巣は技術的な事は何一つ教えなかったが、悩む魔理の心情を見抜きＧＳの現実の一端を教えていた

まあ弟子にするつもりはないが悩む若い者を放っておけないのは、やはり性分なのだろう


（次なる世代に何か一つでも残すのが、これからの私の役割なのかもしれないね）

一生懸命考える様子の魔理の姿に、唐巣はふと倒れた時に病院に見舞いに来た横島を思い出している

《残される者の気持ちを考えて欲しい》

あの時の表情と言葉が唐巣は忘れられなかったのだ

自分が人を教え導くのが向かないとは考えつつも、残されるこれからの若い者達に何かを残すべきではと考えていた


その後魔理は唐巣にお礼を言って帰るのだが、今回始めてＧＳという現実の一端を知ることになる