嵐を呼ぶ再会

まあ生活するのに困るほどではないが、金銭感覚が皆無だった事や人間社会の仕組みや細かな点などはほとんど知らなかったのだ

見た目はともかく中身が幼い故に食べ物さえ与えておけば本人は幸せだったのだろうが、令子が本気でシロを人間社会に馴染ませようとしたのかは魔鈴は疑問だった


(まあ教える年齢でないとも考えられなくはないのですが……)

実際シロの教育は魔鈴も頭を悩ませている

精神年齢を考えればまだ早い気もするのだ

店の仕事は本人の希望もあり教えた魔鈴だったが、本格的な人間社会の勉強は時期を悩んでる最中である


(それに人狼としての教育も必要ですしね。 どちらにしろ次に人狼の里に行った時には長老様と話さなくては)

教育に関しては時期もそうだが教育内容も難しい

これは横島の基本的な価値観が元なのだが、横島も魔鈴もシロを過剰に人間側の価値観に染めたくないのだ

シロが一時期横島の高校などに興味を持っていたのは横島も理解してるが、横島は過去も現在もシロを人間の学校に通わせるつもりは全くない

愛子やピートのような同じ妖怪で人間と共存してる仲間とは合わせたかったのようだが、必要以上に人間だけと関わらせる事には予想以上に慎重だった


(やはり人狼としての教育が先でしょうね)

人狼族は永遠に近いその寿命ゆえに基本的に価値観的な教育はあまりない

力を磨く霊能や剣術などは教えるが、人狼としての価値観などは自然に親や人狼社会から学ぶものなのだ

しかしシロは人間社会で多くの事を学んでいるため、魔鈴は最近人狼としての教育をしっかり行う必要性を感じていた


(私や横島さんが亡くなった後、人間社会にはシロちゃんやタマモちゃんが自由に生きられる環境があるとはあまり思えませんし……)

横島はシロやタマモが自由に生きられる環境を整えたいとの考えを持ってるが、魔鈴はそれは難しいと考えている

仮に横島や魔鈴の子供達や子孫でさえ自分達と同じように、二人と一緒に生きてられるかなど誰にも分からないのだから

そして発展を続ける人間社会は、妖怪などの人外知的生命を全く認めてないしこれからも認めないだろうと魔鈴は考えている

二人の行く末が幸せになって欲しいのは魔鈴も変わらないが、最終的に二人は妖怪の仲間達の元に帰る道が最も可能性が高いのは明らかだった

その為にもシロには妖怪としての価値観や人格を形成しなければならなかった


(バランスとは難しいですね)

シロの教育に悩む魔鈴は、かつて令子との料理勝負で負けた事を思い出す

あの結果が悔しい気持ちは今でもあるが、あの結果が魔鈴に教えてくれた教訓もまた多い

天性のバランス感覚を持つ横島を愛するゆえに、魔鈴は自身もまた横島のようなバランス感覚を持たねばと心に決めている

そう言う意味ではシロの教育は、魔鈴にとっても自身を向上させる挑戦だったのかもしれない



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